遠い記憶。
煌めくのは俺と同じ綺麗な金髪。



「かあさん」
「どうしたの、広樹」
「………………っ」

父さんがまた知らない女のひとを連れてきたよ。
そんな言葉を必死に飲み込む。
目の見えない母さんは、何も言わず聞き返さずに微笑んで、俺の頭を撫でた。ほんとうは知ってるんだよな母さん、目が見えないからって気づかないわけじゃないよね。なのになんで笑うんだよ。わからないよ。父さんもだ、母さんがいるのに何故そんな女といるんだよ。
人を好きになるって、なんなの。

誰かを想う度にこうなるのなら、そんなの俺はごめんだ。


母さんの葬式が行われたのは、俺がまだ12の時だった。












それから二年後、中学二年の夏。

「いつか表れるぞ必ず」

好きな人間なんか作らない。

そう吐き捨てた俺に真面目くさい顔で告げたのは、俺に不良のトップの座を譲った先輩だった。


「人に惹かれない人間なんかいねぇんだ。必ず表れる。特にお前みたいな奴は必ず誰かを好きになるさ」

アンタになにがわかる。

知ったかぶってほざくなよと言い返そうとしたのに、出来なかった。
それからその先輩が絡んでくるようになって、中3になる頃はちょっとだけ俺の性格と態度は丸くなっていた。


そして、高校入学してすぐの春。なんとなく行った立ち入り禁止の屋上で、俺は出逢った。


俺が死ぬぞと言う度に、必死になって止めて説教する、平凡だけどすごく綺麗な目の男。
だけどそれ故にどこか脆そうな雰囲気を持った子。


宮崎犬吾。


…実は、犬吾に謝らなきゃいけないことがひとつあるんだよねぇ。









実は、人を好きになるってこと、わかってます。俺。





だけど、わからないフリをしてたら犬吾はもっと気にかけて構ってくれると思うから、そうしてきた。






ま。もう潮時だけど、ね。







「かわいいなあ」

泣き疲れて眠るボロボロの犬吾を抱き抱えながら薄暗い路地裏を歩く。


くせがついた黒髪を撫でたら、軽く身じろぎをした。








「わんこというより、羊みたいかな」





犬吾、わかってる?






「犬吾から来たんだよ。わかってんの、この意味」









もう、逃がしてやんないよ。









next…

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