本命とはなんぞや | ナノ
本命とはなんぞや 2
前回説明出来なかったが、松川広樹はただ顔が良くて死にたがりバカなだけじゃない。
もっと酷い。
実はあのきらきらした顔でここら一体の不良の中でトップクラスの強さを誇り、不良やチンピラ達に恐れられている恐怖の象徴のフリーな不良。
おまけに遊んだ女の子お姉さんは数知れず、遊ばれたい女の子にお姉さん達もわんさかいるという男の敵。つまり関わるとろくな目に遭わない危険な男。
それが、松川広樹だ。
そして、そいつに気に入られて友人として付きまとわれ、あまつさえ‘本命’にされたのが俺、宮崎犬吾。たまに宮崎県とかわんことかイヌとか呼ばれるのが悩み。まあ、これで俺が平凡高校生から非凡高校生になった訳がわかると思う。
そして、誰も松川広樹の友人なんかに近寄りたくなんか無いから、俺は高校一年の秋でも未だに一人だ。
だから、この状況が奇跡過ぎて実感出来ない。
「なあ、お前が宮崎?」
「ああ…そう、だけど」
松川のバカが用事でいない俺にとっては麗しの昼休み。
なんと隣のクラスの奴に話しかけられた。上級生でも不良でも松川を怖がって俺には話しかけてこないのに。
…しかし。
「ちょっと、顔貸してくんねぇ?」
赤い髪、カラコンらしい緑の目。着崩した制服に両手に包帯。極めつけは耳のあちこちにぶら下がるピアスという名称のわっか。
…こいつも、不良らしい。
「………わかった」
何かあったら治療費払ってもらうからな松川……!!!
定番の如くに連れ出された校舎裏。赤い髪のピアス男は周りに誰もいない事を確認すると、若干ビクビクしている俺を見つめて口を開いた。…嗚呼、どうか松川関係のボコリじゃありませんように!
「俺は昨日こっちに転入してきた日野瀬 薫(ヒノセ カオル)。単刀直入に聞くけどお前さ、松川の本命ってマジ?」
本当に単刀直入だ、逆にすっきりしてくる。
俺は溜め息と共に、答えた。
「……松川がそう決めたみたいだから、たぶんそうじゃないのか」
「みたいって…デキてんじゃねぇのかよ?」
「デキてない。デキたくもない」
ぽかんとした赤髪君を見ながら、俺は地べたにしゃがみ込んだ。久しぶりに松川がいない昼休みなのに結局松川絡みで呼び出されてる事実が嫌になる。
「だいたいお前わかってるだろ?俺は松川の友人だからって松川に言いふらされてクラスどころが学校内から孤立してんだ、そんな俺があの金髪ヘラヘラ阿呆とどうにかなるわけねぇだろ。しっかも男同士で。どっから聞いたかしらねぇけど俺までそっちの趣味ってのはデマだデマ!」
あー……、絶対俺殴られる。でもいいか、どさくさに紛れて愚痴も吐けたしー…。なんてしゃがみながら地面を見ていたらふと向かいに影が落ちたので、顔を上げる。すると赤髪君がじっとこっちを見てから、ぽつりと呟いた。
「んだよ、つまんねー…三次元BL期待したのによ」
…ホワイ?
ぽかーんとする俺に、すっかり砕けた雰囲気になった赤髪君は笑いながら喋り始めた。え、キャラ変わってね?
「せっかく良い萌えネタみっけたのかと思ったのに松川の片想いかよ。あー…残念残念」
「そ、それはご期待に添えんで悪い…」
「いいっていいって、まー宮崎が面白くって良いヤツってわかったからそれだけでも俺にとっては収穫だし、不良イケメン×孤立平凡がイケメンの片想いってのもそれなりに萌えだしな」
混乱する俺をものともせずに笑顔の赤髪君はペラペラ喋る。しかし俺にとっては未知の用語がちらほらと。
…ええと、まさかそれは今一部で話題になっているという。
「…オタク…?」
「プラス、腐男子。あ、俺自体はノンケだけどな」
…ひ、人は見かけによらねぇ…!!!!
「つ、つか日野瀬いいのか?初対面の俺にそんなバラして…しかも松川にバレたら…」
「あー…大丈夫。俺前のガッコで頭やってたから松川と張り合うくらい強いし、宮崎は腐男子とか言いふらしたりしなさそーだし。
あ、日野瀬じゃなくて薫でいいぜ。俺も犬吾って呼ぶからさ」
にかーっと赤髪君こと薫は笑い、俺の頭をくしゃくしゃ撫でてきた。なんだかよくわからんが、たぶん松川に張り合える程強いということはコイツもかなりヤバいんだろう。腐男子とかオタクとかいうのは、置いておくとして。
けど、普通に友達として仲良くなれそうだとアブノーマル不良に慣れた俺の頭は薫をそう判断した。
「わかった、よろしく薫」
そう言って笑えば、薫は目を見開いて耳を赤く染めた。そして。
「へ、平凡萌え……!!」
「わーーーっ!薫、鼻血鼻血!!」
…もしかして、俺って出会い運悪いのか…?
ーー…………
ある程度薫の鼻血を拭いた後、友好記念とかで無理矢理学校から連れ出され、ゲーセンに繰り出し、そして、聞かれた。
「松川との出会い?」
「気になるじゃん、なんで最強の不良イケメンが平凡なわんこを見初めたのか」
「次わんこって言ってみろ、絶対に薫の前で松川と絡まないからな」
「勘弁しろそれは!俺生きていけない!」
友人になって早数時間、薫の扱いに慣れてきました犬吾です。ああ、俺って保育士とか向いてんのかな。
「ベタだし薫が喜ぶようなものじゃないぜ?」
「いーから!」
な、なんか勢いが怖い。
「……えーと、入学式の次の日あたりかな。クラスに馴染めなくて屋上にいたら、話しかけられたんだ。」
『あ、ねぇ!君君』
『…はい?』
『それ今週のチャンプだよね、CHIKUWAどうなってる?』
『…チクワがヨサク取り戻すために忍者辞めたけど』
『え、うそ!?やっぱ見して!』
「…が、初対面の会話だけど」
…くだらないことこの上ない。と、俺は思っているの、だが。
「すげぇ…萌える!」
「何処が!!??」
「いやいやチャンプで運命の出逢いとか美味しすぎるだろ!頑張れ松川!」
「どさくさに紛れて応援すんな!」
ハイテンションで俺の肩に手を回し纏わりつく薫。萌えとかよくわからないが薫はおかしいと思う。うん、おかしいよ特に頭が。
いい加減にしやがれと腕を振り払おうとした、時。
「はーい、広樹頑張りまーす!だからわんわん返してな」
「ぐえっ」
「あ」
いきなり片腕を引かれ、背後にいた誰かに抱き寄せられた。…ああ、この嫌なくらい爽やかな香水の匂いはー…
「わんわんひどーい、俺を放って知らない男と逃避行なんて。俺死んじゃうぞ」
「わんわん言うな、そして逃避行とか変な事も言うな!そして放せ」
「犬吾注文多いー…」
相変わらずのキラキラサラサラな金髪が呆れ顔の俺の頬にかかる。俺を背後から抱きしめて肩に顎を置いている馬鹿やろうは俺の抗議をサラッと受け流して、更にぎゅっと抱きしめて来やがった。やめてくれ、締まる!締まるから…!!
「いい加減にしろってば松川…!か、薫助け……」
「………」
「か、薫?」
薫が俺達を見たまま動かない。もしかしたら松川がなんかやったのかと思わず無理矢理松川の腕から逃れようとした瞬間。
「へ、平凡受けキタ…!!」
ぶはぁっ!、と。
赤い髪のイケメンから本日二回目の赤い鼻血。
「わ―、鼻からブラッド」
「ば、バカオルーー!!」
うん、やっぱり。
俺は何かにとりつかれてるらしい、です。
(あれ、つかコイツ俺と並ぶ不良のボスじゃん)(…やっぱり不良しか集まらないのか俺の周りは…!)
02・end
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