夕日が沈みかけ部屋の中がオレンジに染まった頃、腕時計を確認し、なまえはテーブルに手をついて立ちあがった。

「じゃあ、私はこれで。またね、璃緒ちゃん」
「帰るのね、Wのところに」
「……うん」

 Wの名前を出した途端、申し訳なさそうにする彼女の手首をぎゅっと握って引き留める。彼女を困らせたいわけではない。ただもっと一緒にいたいだけ。きっとそれは彼女も分かっているだろうけれど、結果として困らせてしまっていることに違いは無かった。それでもやめようなんて思わない。なまえが私を選んでくれるまでは。

「どうして? Wは私にひどいことをしたわ。そんな人に、あなたを渡したくない。ねえ、ずっと私と一緒にいて」
「出来ないよ、私……Wさんのこと、好きだもん」
「私よりもWのほうが好きなの?」
「二人とも大好きだよ! 大好きだけど、でも……その、Wさんのことは、男の人として、大好きなの」
「そうね、だったら言い方を変えましょう。私とWを天秤に乗せたら、どっちに傾くのかしら」
「それは……」

 言い方を変えた所で意地の悪い質問だと言うことには変わりない。女と言う生き物は恋愛に対してひどく悪知恵が働くもので、今回だって例外ではなかった。愛する者を引き留めるためには何だってする。けれど、それの何がいけないのかしら。好きな人とずっと一緒にいたいというのは当然の事。言い淀むなまえの唇に口付けてしまいたい。でも、それはなまえが私のものになってからの話。私だって、人の物に口をつけるのは気が進まない。

「分かるわ。あなたは優しいから、Wって言いたいのに言えないのよね。私よりもWを優先するのよね」
「……ごめんね」
「謝罪の言葉なんて聞きたくないわ。謝るんだったら私を選んで」

 なまえが私に会いに来るのは罪悪感からだということも分かってる。それを利用して、ずるいことをしてるんだってことも。でも私に会いに来る事で、罪悪感を晴らそうとしているなまえだってずるいじゃない。私が求めているのはそんなことじゃないって、分かっているでしょう。お土産も何もいらないから、私が一番欲しいものをくれたらいいのに。そんな簡単なことではないけれど、私を哀れむ気持ちがあるのなら、私はなまえが欲しい。
 なまえを更に追い詰めるような事はしたくない。けれど、同情を乞うかのように、私はなまえを抱き締めて言葉を続けた。

「……私は妹だったから、いつも二番目で我慢してたの。双子なのに、凌牙の次、凌牙の次、って。……でも私、もうそんな我慢したくないわ。私はあなたの一番になりたい。二番目なんて絶対にいやよ。Wよりも、私の事を好きになって」

 二度目の謝罪を聞いたとき、私の目からはぽろりと涙が零れた。おかしいわね、優先順位が二番目になる事なんて、慣れているはずなのに。こればかりは、諦めるわけにはいかないの。
 なまえが私のものになっても、私はWのおさがりを貰うことになる。Wの愛情を惜しみなく刷り込まれた後のなまえしか私は知らない。けど、それでも構わないわ。私が好きななまえであれば、それで。そしてなまえの愛情が、Wから私に向けばいい。それをWが許さなくても、本人の気持ちはどうしようもないのだから。