布団の中から、目も合わせずに近寄るなと威嚇された。随分と嫌われてしまったようだがそんなことは関係ない。彼女の気持ちなど、今はもう思いやるつもりもないのだから。お互いの意思を尊重し、尊敬して高め合うのが理想の恋人同志の図だとしても、そんな理想を追う理由だってどこにもない。

「口の利き方を改めなさいと言ったでしょう」
「……嫌」
「また酷い目に遭いたいんですか?」

 本当は口の利き方なんて乱暴だろうと丁寧だろうとどうだっていい。拒絶の言葉さえなければ。それを口にした所で彼女がそれを認めるとは思えない。思えば、彼女がここに来てからずっと彼女の口からは拒絶しか聞いていなかった。たまには求める言葉を言ってもらいたいものだ。
 頭まで布団を被った彼女の表情は見る事が出来ないが、少なくとも穏やかなものではないだろう。そう、例えば。嫌悪感に苛まれて目を閉じ、唇を噛み締めていたり、とか。理由にさえ目を瞑れば酷く官能的な表情だ。途端にその表情を見たくなり、布団を剥がそうと引っ張れば、中からも引っ張る力が加えられた。意地でも顔を合わせたくないらしい。

「布団から出て来て下さい。もう昼ですよ」
「嫌、離れて」
「……何故」
「あなたのことが大嫌いだから」

 そんな事を言えば酷い目に遭うなんてすぐ分かる筈だろう。やっぱりコイツは馬鹿だ。彼女の体に新しい傷が出来るまで、後五秒。それまでの間に俺に好きだと、愛していると言うのなら、痛い事はしないでおいてやる。だが、それは有り得ないと自分が一番よく知っていた。ぎゅっと掌を握り締めて怒りを堪える。
 さあ五秒だ。今回は一体何をしてやろうか。