「成仏するべきだよなあ」
「まあ、そうでしょうね」
「だよなあ。…でもさ、あんなに泣かれちゃあ、自分だけおめおめと成仏しちゃっていいもんなのかとか色々考えちゃうんだけど」

通っていた屋上の貯水槽の上に俺は足をぶらぶらさせながら座っていた。

「成仏せずに彷徨えば彷徨うだけ、あなたの次の転生までの時間が延びていくだけです。悪いものに目をつけられれば化け物にだって為りうる」

そんな俺の隣に立っているのは黒スーツに身を包んだ、思わず口を開いて見惚れてしまうような美形のお兄さん。彼は死神で、俺の担当をしているらしい。

「まあ、私がついている限り、化け物にはさせませんがね」

死神は目を細めてうっそりと笑うと、俺を見て「悩む分だけ無駄ですよ」と囁いた。

「あなたは死んで、悲しいことにあの人間は勝手に死ぬことが出来ない運命だ。あなたが悩んだ所でどうにもなりません」
「…死ぬ事ができないって?」
「言葉の通りです。運命にそう決められている。彼は彼に与えられた役割を果たすまで死ねない」

俺は死神の硝子玉の様な目を見つめる。死神は微笑んだまま、そろそろ行かなくてはと言った。

「心が決まったら私を呼ぶといい。一瞬で送ってさしあげます。大丈夫。私は上手いですから、痛くはありませんよ」

俺は死神と始めて出逢った時に見たごついチェーンソーを思い出した。あれで刈られるだなんて絶対に痛いに決まっている。

そんなことを考えていたら、いつの間にか死神は目の前から消えていた。神出鬼没な奴だ。俺はごろりと貯水槽の上に寝転んで、空を見上げる。屋上から見える空は何重にも雲が重なって、灰色に染まり僅かに暗い。今日は雨になりそうだ。

俺はぼんやりとそんなことを考えながら、目を閉じた。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -