「あー、どうしよ」

自分の死んだ現場を眺めながら、俺はぼんやりと呟いた。小さな横断歩道に備え付けられた錆びれた歩行者用信号の下には、毎日真新しい花が供えられている。俺は溜息をはいた。

俺が成仏できない理由。それは3ヶ月が経っても尚、俺の死を忘れられずに嘆き続けている人間の存在に他ならない。

その人間の名前は小笠原 始。高校の同級生で、俺が生きていた頃は話したことも関わったことも全くなかった奴だ。

小笠原はイケメンで、文具両道かつ性格も良いというまさに奇跡みたいな人間だった。いつだって人に囲まれ、普通に平凡に生きていたいがモットーだった俺にとっては雲の上の存在だ。

それなのに、小笠原は全く関わりのなかった筈の俺の死を誰よりも深く嘆いている。

俺が死んだと知ったその日から小笠原は何度も自殺未遂を起こした。学校にも行かず、俺の死んだ現場をぼうっと眺めている。生気をなくし、やつれた顔はまるで死人のようだと自分を棚にあげて思った。それほどまでに小笠原の状態は酷かった。

今日も小笠原は俺の事故現場を信号機の下からぼうっと見つめている。手には色とりどりの花束が握られていた。俺はその隣に立って、がりがりになってしまった小笠原を見つめる。その顔に以前の生気に満ち溢れ、輝いていた面影はない。

「佐藤…なんで…」

なんで死んじゃったの。いつだって繰り返される質問。小笠原の呟いた言葉に俺は返す答えも術も持ってやしない。嗚咽をもらし、静かに泣いている小笠原の背を撫でようとして、通り過ぎる手。

「…何で死んだのかなんて、そんなの俺にだってわかんねえよ」

手を固く握り締めて、空を見上げる。幽霊に涙があるのかは分からない。けれど、泣きそうだと思った。




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