「あの馬鹿は、まったく……。」

ぼそりと呟いて乱太郎の話の途中から思い浮かんでいた名前を呼ぶ。

「きり丸、降りてきなさい。」

外のざわめきとはまるで別の世界のように、水を打ったように静まり返っていた部屋の中。
その天井の片隅で小さく音がした。

「ひでーっスよ土井せんせー。」

とん、と軽い音を立てて、床の傍らに降りてきたちいさなひとつの影。

「学園長のおつかいは済んだのか?しんべヱはどうした?」
「しんべヱならおばちゃんのところでこっそりおにぎりもらってます。学園長先生のおつかいは隣村の……ってそんな事はどうでもいいんですよ!なんっ…なんで乱太郎にあんなこと!」

顔を紅潮させてむくれるきり丸は、拗ねた表情を隠さないでこちらにかみついてくる。

「どこから聞いていたのか知らないが、乱太郎の話の中の、相手の気持ちも考えない馬鹿はお前だろう。」
「……うぐ、」
「どうせ、お前がそうと告げる前に誰か他の子と仲良くしていて、焦るあまりに勢いで告げてしまって考えなしにあんなことを…」
「…………。」
それまでの勢いが瞬時に消え、小銭を無くした時のように見事にしょげかえってしまった。
口元で、「でも」とか「だって」とか何やらぶつぶつと呟いてはいるが。

「乱太郎に謝りなさい。」
「!」
「お前の事を気遣って、は組のみんなにも先輩にも言えずにずっとひとりで悩んでいたんだ。」
「…………。」
「謝りなさい。」
あんなにお前を大切に想ってくれている子に。

「……だって、乱太郎はみんなに優しいんです。」
「……。」
「しんべヱにだって庄左ヱ門にだって善法寺先輩にだって。僕にだけじゃない。」
「…お前な。」
「……。」
むくれたままの頬をぐいとつまみ、そのまま引っ張りあげてやった。おぉ、のびるのびる。

「ひはひひはひほひへんへーっ!」
「あれだけ真摯にお前の事を考えてくれてる子にまだ言うか。」
「……。」
「あの子を信じられないなら、もう二度と好いているなどと口にするんじゃない。」
「ひやら!」
「へ?」
「はんはほーはほふほ……」
「あ。すまん。」
よほどつまみ具合が良かったのか、すっかり忘れてた。

「いてー。……だから嫌だって言ったんです。乱太郎は僕の…その……」
「それならちゃんと謝りなさい。」
「…………はい。」
「お前は好いた相手の事も信じられないような子じゃないだろう。」
「……。」

泣いていた表情を天井裏で見ていたのだろう、さすがに神妙な顔つきになったきり丸に言い含めるようにそう繰り返したら、やっぱりむくれたままだったけれど渋々といった様子で頷いて、同じ忍装束をまとった大好きな子の後を追っていった。

ふたりとも本当に心根の優しい子たちだ、明日には一緒に笑っているだろう。



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