階段 | ナノ
(『小説カキコ』にて掲載。2010/03/20 22:08。
これは結構気に入っていたりします・・・・・・。)

階段


俺は今、エスカレーターに乗っている。
楽だ。
周りの奴は、ほとんどが階段で。
大変そうだな、自分であがるなんて。
「馬鹿だな。」
そう呟いた。
相手に聞こえていたみたいだけど、相手は少し眉根を
ひそめただけで、大して気にもしていないようだ。
それどころか、その口元は笑っているようにも見えた。
下の方を見ると、何人かの子供はエスカレーターに乗っていた。
俺の普段の視点では、俺以外の奴は、ほとんどが階段だ。
ひとり、エスカレーターの奴もいるが。
そいつの顔は、階段の奴を嘲笑うどころか、ひどくうかない顔をしていた。
なんでだろう?
まあ、どうでもいいか。
楽だし。
しばらくすると、もうひとりのエスカレーターの奴が、動いた。
どうしたんだ?珍しいな。
そう思った途端に、あいつはエスカレーターから落ちていった。
「あっ・・・!」
そうして、エスカレーターとともに消えていった。
「・・・・・・。」
何も言えなくて、とりあえず冥福を祈っておいた。
また周りの奴を見ると、いつの間にかいなくなっている奴がいたリ、
エスカレーターに変わっていたり、高級そうな身なりになっていたり。
なかなか、見ていて面白さがある。


しばらく経った、ある日。
エスカレーターが、急に止まった。
「あれ? おい・・・動けよ、おいっ!!?」
動かない。いくら地団太を踏んでも。
周りの奴は、また階段を昇っていった。
冗談じゃない、今まで楽をしてきたのに!
今さら、階段に乗り換えるだなんて!!
・・・しばらくしても、やはり動かなかった。
やっぱり、自力で登っていくしかないか。
仕方がない。
そう考えて、階段を登ろうとした。
登れない。
なんでだ!?
くそ!くそッ!!くそおおおぉおッ!!!

・・・そうか、俺、今まで自分で上がったことなんて、なかったっけ。
エスカレーターの下を見ると、両親が倒れていた。
動力源が、もうないから。
動かなくなった。
今まで、それだけに頼って楽をしてきたから。
動けなくなった。
俺は、階段を自ら落ちた。
ああ、そうか。
なんであいつが落ちたのか、わかった気がする。
自分に、絶望したからだ。
なんで、あいつらがなにを言われても笑っているように見えたか、わかった気がする。
俺が、馬鹿だったから。
俺が、自分が笑われる存在だって、どこかでわかっていたからだ。
もうすぐ、エスカレーターの下。
下には、愛しそうな、恨めしそうな、両親の声。
誰か、手を伸ばしてくれ。
誰でも良いから。
誰か・・・・・・。
階段の一人が、笑った。
ひどく醜く、俺を嘲笑っていた。

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