相合い傘 | ナノ
『この国』は一週間に一度は必ずと言って良い程に雨の日がある。

何時もならばぱらぱらとした俄か雨なのだが、今日は生憎と土砂降りだ。

走って行けば良いと思ったものの、未だ家まで半分以上の距離があるのに濡れ鼠になってしまった。

だからこうして足止めを喰らって居るわけだ。

「……雨、か。あの日も雨だったな……。」

灰色の空を見上げて独りごちる。

屋根の下に身を置いて居るものの、時折雨粒が身を掠める。

その冷たい感触が、どことなく心地いい。

それに曇天を見上げるのも、悪くない。

ふと、隣に誰かが雨宿りに来たのを感じ、間をあける。

「今日は僕の日だね。雨、雨、ざあざあ♪」

「……雨引?」

聞き慣れた声に振り向くと、隣人は雨引であったのだと理解する。

雨引は相変わらずの笑顔を浮かべていた。

「そんなに濡れちゃって、『水も滴る好い男』かな?元々好い男だけどね!」

雨引のよくわからん発言はさておき。

「……傘を持っているではないか。」

雨引が乾いた右手で握りしめている傘を指差すと、雨引は肩をすくめてまた笑う。

傘を持っているのなら雨宿りをする必要性など無いのに、雨引は俺の隣にいるのだ。

「雨に濡れるまでもなく黒目ちゃんは好い子だよ。
でも僕は、まだまださ。」

「……?」

「だから、黒目ちゃんにこの傘貸すよ。」

雨引は笑みを深めて傘を俺の手に無理矢理に握らせる。

雨引の手が、俺の手に触れて濡れてしまう。

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