お題小説A | ナノ
あきかぜとやったお題小説<「悲惨にも組み込まれた」>
しかしかなりわけがわからない。しかも長い。



あれから何日経ったのだろう。
日が昇るたび、日が沈むたびに。
繰り返す、絶望と怒り。
俺は、一人。
数日前まで、二人だったけど。
ここは、山の中。
誰も、助けてはくれない。
泣き叫んでも、誰にも声は届かない。
ここは、大きく深い、穴の中。
どう足掻こうと、逃げられはしない。
それでも、無意味に足掻く。叫ぶ。
こんな目に遭う理由なんて俺には無いから。
隣に、もう一つ、穴があった。
その中に、女性の死体が、埋められている。
冷たく暗い、土に。
見てしまった。
透き通る様な、白い肌に。
紅色の、化粧。
それは、全身が、紅く染まっていた。
人間とは思えない、光景。
見たくなかった。
                 
俺は、人気の無い、山の中。
誰も気付いてくれない、道外れの穴の中。
死を待つしかない、落とし穴。
あるのは、自分と、服と、冷たい土。
それ以外は、何もない。
数日前まで、俺は、彼女と二人で部屋にいた。
でも、今はいない。
俺、一人。
どうしてこんな目に遭わなくてはいけないのだろうか。
悪いことなど何一つしていないのに。
悲惨にも組み込まれた、俺の運命なのだろうか。
神の、悪戯なのだろうか。
                

何で、こんなことになったのだろう。
俺は、こんな穴に閉じこめられた。
入りたくなんか、無い。
全くの、偶然。
怒りがこみ上げてくる。
不安がこみ上げてくる。
絶望がこみ上げてくる。
助けて欲しい気持ちがこみ上げてくる。
空腹がこみ上げてくる。
不愉快な気持ちがこみ上げてくる。
寂しい気持ちがこみ上げてくる。
悲しい気持ちがこみ上げてくる。
哀れな気持ちがこみ上げてくる。
色々な気持ちが、こみ上げてきて。
温かで、透明な水がこみ上げてくる。
人間味のある、涙。
温かい、涙。

誰かの、啜り泣く、声が聞こえた。
どこから聞こえるのだろう。
誰かが、助けを呼ぶ声が、聞こえた。
誰だろう。
上から水が落ちてきた。
手には、温かい、濡れた感触。
まるで、何かを後悔する様な、後ろめたさが描かれた、模様。
どこからくるのだろう。
誰かの、慈悲を請う、かすれた声が聞こえた。
罪深きは、誰なのだろう。
深淵の闇へと葬られ、恐怖を噛み締めるかの様な吐息が聞こえる。
どうしてそんな恐怖を味わったのだろうか。
また、温かい、人間味のある水が目から溢れてくる。

段々と視界がぼやけてきた。
涙の所為じゃない。
あと少しで。
もう、二度と見えなくなる。
何度眠りについても、今と同じ感覚は無い。
声が出ない。
助けを呼びたいのに。
例え誰もいなくても。
 なんとか此処から出たい。
逃げ出したい。
もう立ち上がる力すらなくても。
誰かが救ってくれることばかりを、祈る。
もう、何も聞こえなくなる。
誰かが枯れた声で、啜り泣く声さえも。
 もう、意識が朦朧とする。
何一つ、罪など犯していないというのに。
悪いことはしていないのに。
俺はただ冷たく、いつの間にか人とは思えない心を持った、
俺が、俺の彼女に死という裁きを下しただけなのに。
物も。死体も。全ての証拠を抹殺するために。
この人気の無い、山に来ただけなのに。
俺は、何一つとして、罪を犯してはいない。
死体は。
醜かったから、見たくなかった。
ざまあみろという気持ち。
美しくないという気持ち。
気持ち悪い。
もう流れ出る涙など無いのに。
目頭が、熱くなる、感覚。
嬉しいのだろうか。
悲しいのだろうか。
俺自身さえ、分からない。
俺は、悪いことはしていないのだから、
きっと前者だろう。
彼女が、他の誰かに裁かれる前に、
俺が裁いただけなのだから。
俺は。
冷たく人間味のない、
俺を理解してくれない、彼女に。
俺が裁きを下しただけだから。
その偉業を、土深くに埋めただけだから。
こんな目に遭う理由は、最初から無い。
                      


でも。


意識を失う直前に、気付いた。
助けを呼ぶ、声。
あの誰かが啜り泣く声。
慈悲を請う様な、罪深き声。
手のひらに落ちてきた、懺悔の雫。
深淵の闇へと葬られ、恐怖を噛み締める様な、孤独な吐息。
全てが、



誰かからの裁きを受けた、俺の、本当の心だったんだって。
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