九十臨 | ナノ
嫌がる体を後ろから無理矢理抱きすくめれば、数秒の抵抗の後におとなしくなった。全体重をこちらにかけてきているのはせめてもの嫌がらせのつもりなのだろうか。だとしたらなんとも的はずれなことだ。
「…離せ。」
ぼそりと呟かれる言葉はいつも若干の刺をはらんで九十九屋の耳へと落とされる。
心地よい。そう素直に思って目を細めれば、こちらの顔が見えたわけでもないだろうに臨也は不快そうに顔を歪めた。
多少の抵抗はあったとはいえ、どうしてこうもおとなしく臨也が九十九屋の腕のなかにおさまっているかというと、ただ単純に九十九屋が臨也が欲して止まない情報を眼前にちらつかせているからにすぎない。
寄せられた眉と決してこちらを見ようとしない瞳、固く結ばれた口。本気で嫌がっているだろうことはその表情からひどく容易に読み取れる。
「…もう一度言う。離せ。」
「情報、欲しいんだろう?」
こっぴどく嫌われたものだ。身体中から発せられる拒絶の空気に、何かピリピリとしたものを肌に感じたような気がした。
それでも情報を盾にこうして定期的に接触を謀る。それくらいには、九十九屋は臨也のことを気に入っていた。
「…お前は俺をどうしたいんだ。」
不意に、今まで沈黙を保っていた臨也が沈んでいきそうな声をあげた。
感情をここまで隠そうともせずに声に浮かべるなんて珍しいな。そう思いつつも九十九屋はひどく喜色の滲んだ表情で、そして声色にはこれといった感情を悟らせることのないまぜこぜのウィスパーで返す。
「別に。どうもしないさ。」
そんな、九十九屋にしてはあり得ないほどに人の機微に気を使っての返答でさえ彼のお気には入らないようで。
どこまでも一方通行だな。苦笑いと共に落とされたため息は、臨也の艶やかな黒髪を撫でて、そうして消えた。
私は 私ですら知らない真実を隠しています
(それを認められるほど大人にはなれないのです)
――――
本気で嫌がる臨也さん。
私がいかに九十九屋廃なのかがわかるような文章になってしまいました。
もっと九十九屋さんは変態さんにした方がよかったのかなと思いながら。
何はともあれリクエストありがとうございました!
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