リミット | ナノ
これから向かうは見知らぬ土地。
一度たりとも踏みしめたことのない、けれども確かな祖国の地。
長方形の車は多くの命を運ぶ。
同じ人間同士賑やかに騒ぐ者、独りどこか遠くを見て寂しさを見ぬ者。
命は何をしているかは様々ではあったが、私は後者であった。
修学旅行。
最早古今東西多くの学びやではこの行事が行われている。
多人数が何処か遠くの地へ赴き、新鮮な空気に触れ日常を非日常へと変えるのだ。
授業の一環ではあるものの、生徒の心構えとしては思い出作りや遊ぶことが念頭にあった。
でも、私にはそんな考えは毛頭無い。友達など一人としていないというのに、思い出を作る気にもひとり遊びをする気にもなれなかった。
私の隣には誰もいない。
強いて言うならば、一人の退屈しのぎに多めに持ってきた分厚い小説が居座っている。
同級生の一人が欠席したので、私の隣には誰もいないのだ。
別に欠席者がたまたま隣席だったわけじゃない。
元はといえば同じ班の女子の席であったが、仲の良い女子と喋りたいからと欠席者の席へと移動しているのだ。
欠席者の席の周りには、その女子のよくつるんでいる人達がいたから。
まあ、それはいい。・・・そういえば、欠席者も私と似たような者だったな。
暗くて、人と話すのが苦手。私みたいな。
そんな人が何泊も他人と生活をともにしたり、裸を晒すというのは抵抗がある。
だから、休む気持ちもわかる。
まあどうでもいいけど。
「まあ、すごい雪・・・運転手さん、道路は大丈夫ですか?」
担任の先生が運転手へと不安そうに声をかける。
確かに、窓の外を覗こうとしても白く視界が遮られて全く外の様子が分からない。
忙しなく動くワイパーによって綺麗にされた正面のガラスだけはこちらと比べて鮮明であったが。
「ははは、こんな山奥のスキー場ともなれば、よくあることです。この程度なら、大丈夫でしょう。チェーンも巻いてあります。」
運転手が軽く笑いながら答えるので、教師はひとまず安心して今日の日程を確認し始めた。
ぐにゃぐにゃ。
ぐにゃぐにゃ。
不吉な動き。不規則な。
「う、運転手さん、揺れ過ぎじゃ・・・!?」
教師は運転手に駆け寄る。顔が青ざめる。最早嫌な予感しかしない。
運転手側の最前列の席の私には、そのやり取りがよく見えた。
「し、死んでる・・・!?」
悲鳴。
その言葉に、車内は蒼い炎のように、冷たく、熱く弾けた。

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