フィギュア | ナノ
  あきかぜと昔やったお題小説。
<「無」と「あった」>

なかった。
何処を探しても。
無いと思ってから、何時間経ったのだろう。
時計を見ると。
さっきまで、時計の針は八時をさしていたはずなのに。
もう、十五時。
まだお昼の時間帯だろうか。
諦めきれない。
どうしても。
命よりも大事な物を探している。
部屋はまるで、泥棒に荒らされたかの様に、散らかっている。
妻が掃除してくれたのに。
そういえば、妻がそろそろパートから帰ってくる時間だ。
この永遠に物を探し続ける地獄から、解放されるかも知れない。
妻はきっと何か知っているのだろう。
妻は、あまり良い目で見てはくれなかったが。
命よりも大事な、俺の秘蔵コレクション。
とっても大事な、フィギュア。
手も加えてある。
フィギュアのために、二千万はかけた。
借金してまで。
貯金を崩してでも。
              

ピンポーン。チャイムの音。
妻は、俺に迎えて欲しいが為に、鍵を持たない。
おかえりなさい。
ただいま。
いつもの会話。いつもの挨拶。
いつもと、何ら変わらない、日常。
パート先での事とか、幼稚園の友達の話。
いつもの、話題。
いつもと同じ、今日。 
いつもと違う、話を。珍しく俺からした。
俺の、命よりも大事な、コレクションを知らないか、と。
妻はしばらく悩みながら、言った。
「あなたのために、子供のために、
・・・捨てたのよ。
これから子供も大人になるっていうのに、お金が沢山かかるっていうのに、
借金してまでフィギュアにお金をかけてばかりじゃダメでしょ!?
・・・分かって・・・くれる・・・よね・・・・・・?
・・・私、子供を迎えに行かなきゃ・・・・・・。」


そこからは、あまり覚えていない。
記憶が、もやにかかっている様な、感覚。
頭を抱えて、目を閉じて。必死で空白の記憶を辿る。
少し思い出してきた。
また、失った。
フィギュアじゃないものを。
今さっき。
もう何処にもない。
永遠に、見つからない。
目の前に、あった。
紅に染まって、艶やかに輝く、肉。
赤い、水。 
そして。
もう、人の形すら無い、哀れみの対象があった。
そして、命の次に、大事なものが、赤に染まっていた。
そして、その次に大事な、少女の叫びが。
聞こえる。



もう、聞こえない。

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