モブ×黒目&雨×黒 | ナノ
黒目は独り、情報収集のために街の酒場でオレンジジュースを飲んでいた。
数人が何やら楽しげに語らいながら呑んでいるが、誰も黒目に声を掛けるものは居ない。
それはそうだ、欧州では珍しい黒いスーツに黒いマフラー、右目を黒髪で隠しているという異様な風体に、冷たい空気を漂わせているのだから。
例え気さくに声をかけたとしても、そう馴れ馴れしくは振舞ってくれないだろう。
稀有ともいえる奇麗な顔立ちに影を落とすような、唇の真ん中に遺された痛々しい傷痕をジュースで湿らし、黒目は辺りを見回した。
昼日中から、飽きもせずがばがばと酒をかっ喰らう連中。もしかしたら、いずれ消すべき存在がこの中に居るかもしれない。
自分は“送り屋”なのだから。
「隣失礼しまーす♪」
「・・・・・・。」
既視感のあるような明るい声が俺の隣から発せられた。頭に浮かんだ人物ではなかったが、どことなく雰囲気が似ていなくも無い。
「あれ、一人?オレ、フォール・ディレイっていうの。なんか一緒に飲まない?」
金髪に、白色のジャケットを着た若い男が馴れ馴れしく声を掛けてくる。
正直こういう手合いは苦手だ。
「・・・遠慮すル。」
俺のよくない返事に構わず、彼はトーストを注文して話を続ける。
「オレ旅人ってやつでさ、あんまり人と話す機会がないんだよ。
ちょっとだけ、付き合って?あ、マスタージャムじゃなくてバターちょうだい。」
君は人の話を聞け。どうせなら他の奴にしろ。マスターなんて商売なんだから付き合ってくれるだろうに。
「あー、あなた訛りあるね、どこの国?」
「・・・日本。東の国ダ。」
損をするでもないし、まあ少しなら付き合っても良い、か・・・?
「へえー!オレ東のほうには行った事無いんだよね、あそこは・・・漫画とかあるんだっけ?
あと技術力が高いとか、平和とか・・・。」
「・・・平和?ハッ。」
日本が平和?―――確かに表面上は平和かもしれない。だが、俺の周りは少なくともそうではなかった。
毎日毎日毎日毎日殴られ嬲られ怒鳴られ八つ当たりのはけ口にされ傷を負わされたっていうのにか?笑える。
「・・・なんだい、なにかあったのかい?」
「別に。」
思わず日本語で返してしまったが、如何でも良いことだろう。そう気遣う必要は無い。
通じないかとも思ったが、なんとなく意は汲めたらしい。が、彼は大して気にした素振りも見せず、思い出したように話し始めた。
「そっかあ。ああそうそう、この前行ったギリシャの遺跡がね・・・。」
―――三十分後―――
・・・この男は、何時まで喋る気だ・・・?

◆◇◆◇◆◇◆◇

「それで・・・あ、ちょっと失礼。タバコ吸うから。」
そう言い、彼は懐からマッチを取り出しカウンターの上に置き、煙草をポケットから取り出す。そこで俺は眉根を寄せた。
「あれ、煙草嫌い?」
「大嫌いダ。」
「そりゃごめん。」
彼は笑って煙草を仕舞うと、カウンターの近くにあった時計を見て目を見開いた。
「げっ、もうこんな時間!?もう行かなきゃ・・・話聞いてくれてありがとう、あなたの名前は?」
もしもの事があるといけないので、俺は適当に思いついた偽名を名乗っておいた。
「・・・木村忠吾。」
「じゃあチュー、またね!」
そう言って嵐のように男は去っていった。・・・なんだったんだ、あいつは。
「サービスです、どうぞ。」
誰かの低い声が耳に届いたので、そちらを振り返る。すると眼前に薄紅色の甘い香りのする酒が置かれた。
酔いそうな、くちなしの香り。
置いた人間の方を見ると、にこやかにその酒を薦めるマスターの顔があった。
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