変色エゴイズム | ナノ

ここはいつでも恐ろしいくらい寒くて。
天候に関わらずいつだって白銀が地を覆い尽くしている。

そんな白銀色の大地に寝そべり、空を見上げ、ただただ自分が白銀に染まっていく感触。
体から自分が抜け落ち、代わりのものが体を満たしていく。
それが心地よくて、まぶたをおろす。

まぶたの裏には、ただ闇だけが広がっていた。



いつものように山を登る。
他の色を一切拒絶するような鋭い光を放つ白銀に。
山頂付近に着くと、白に埋もれるようにしている赤が目についた。

「レッド。」

その赤とはもちろんレッドのことで、俺はまたかとため息をつく。

「…グリーン。」

緩慢な動作でこちらを見やるレッドに近づく。

「お前そんなことばっかしてるとその内ほんとに死ぬぞ。」

文字通り白に埋もれるように雪の上に寝転んでいたレッドの手を引き、無理矢理立ち上がらせる。
体の上にもかなりの量の雪が積もっており、レッドの体は雪と同化するように冷えきっていた。

「聞いてんのか、レッド。」

レッドの足取りはおぼつかない。
支えてやらなければ直ぐにでも倒れてしまうだろうほどに。
当たり前だ。
こんなに冷えきっているのだから。
いったいこいつはどの位この灰色の空を、降り積もる雪を見つめていたのだろうか。

「…グリーンは、雪が嫌い?」

一向に赤みの戻らない、病的なまでに白い顔でレッドが尋ねる。

「…あぁ。嫌いだな。寒ぃし、動きにきぃし。」

お前をこんなとこに閉じ込めて、その上連れ去ろうとする雪なんか、どうやったって好きになれるはずがなかった。

「…そう。」

きれいなのに。
レッドがあまりに儚く、消えていきそうな顔で呟くものだから。
俺はレッドを引き寄せ、力の限り抱き締めた。
氷を抱き締めているかのように、冷たかった。
白は何色にも染まるというが、とどのつまりそれは他の色を奪っているということに他ならない。
レッドの熱を奪っていった白は無色透明に色を変えた。
ならばレッドのすべてを奪った白は、何色にその姿を変えるのだろう。

「…グリーン?」

レッドの声がする。
感情を感じさせないその声に、抱き締める腕の力を強める。
…あぁ。レッド、お前。
もう、感覚がないのか。

「レッド。お前は消えないよ。消えることなんかできやしない。」

ぴくり、と。
レッドが腕の中で肩を跳ねさせる。
なぁ、レッド。
お前の考えてることなんて、全部わかってんだよ。
他の誰にもわからなくても、俺はお前を理解してやれる。
消えたいんだろ?
この世から。
消えてしまいたいんだろ?
だけどな、それは無理なことなんだよ。
お前の赤は鮮やかすぎて、何色にも塗りつぶせない。
白にだって奪わせない。

「消えることなんてできないんだ。」

俺の体温を奪って、ようやく人並みに温かくなってきたレッドに諦めさせるように耳元で呟けば。
レッドの目から透明な滴が一粒流れ落ちた。





(願わくばお前の染まる色が俺でありますように。)



――――
なんだこれ。
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