目蓋の裏の幸福 | ナノ


九十九屋、と。
名前を呼ぶ声が聞こえる。
その響きに意識が引き上げられ、九十九屋はゆっくりとまぶたをあげた。
いやに暗いなと寝ぼけ眼のまま宙を見て、そうして紅玉の瞳に行き着いた。

「…折原。」

見上げるその顔には恐ろしいくらいに表情というものがなく、九十九屋は笑いそうになる気持ちを奥へと押し込んだ。
静かに脈打つ心臓の音が聞こえるのではないかと思われるほどに近い距離の中で自然とぶつかる視線。
その瞬間に臨也は表情を取り戻し、爛々と光る瞳はそのままにいっそ不自然ではないかと思われるくらい甘くその整いすぎた顔をほころばせた。

「…九十九屋。」

首に回される腕とそれにともなって感じる暖かさに、九十九屋は気づかれないようにそっと笑みを澪した。

「九十九屋。…愛して。」

「あぁ、愛してるよ。…折原。」

ここまで来るのにどれくらいかかっただろうかと、すり寄る臨也の頭を撫でながら九十九屋は思った。
愛されない愛されたい愛してと、子供のように密かに泣いていた彼に、目隠しをして耳を塞いで自分だけしか認識できないように愛を囁き続けた。
そうしてやっとのことでこの腕の中に閉じ込めた彼。

「そうだ折原、知ってるか?」

新宿や池袋は、お前がいなくなったと言うので大騒ぎだぞ。
そう言ってあそこに未練はないのかと遠回しに聞いてみても、返ってくる返事はとても素っ気ないもので。
定期的にその事実を確認しては悦に浸る自分がいることに、九十九屋はそれもまた良いものじゃないかと。

「まぁあれだけの情報持ったままいきなりいなくなられたんだからな。」

「…ここなら邪魔は入らないんだろ?」

「もちろん。」

なら、どうでもいいと。
お前がいるのならどうでもいいというその言葉がどれだけ嬉しいのかということを、臨也はきっと気づいてはいない。

外ではきっと、粟楠会などの仕事関係の人間以外にも臨也を探している人間が少なからずいるのだろう。
彼が自分で思っているより、世界は彼に対して優しい。

「愛しているよ、臨也。」

ならばそんな事実などなくしてしまえばいいと、今日も彼らは、歪んだ愛を囁き続ける。






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諸君、私は相互依存が好きだ!愛してる!
歪んだ愛大好きです^p^
ヤンデレは素晴らしいと思います
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