奥。 | ナノ

家の扉にはやけに頑丈そうな鉄の鎖が巻かれ、誰も立ち入ることが、立ち去ることが出来ないように鍵が掛けられていた。
持ち前の腕力で無理矢理それらを引きちぎる。
そうすれば後はもう、取っ手を掴み横に引くだけで扉は呆気なくも開いた。

一見して何のことはない普通の家。
窓などの外へ通じるところ全てに掛けられた重そうな鍵以外はどこにでもあるようなただの家だった。

「……誰。」

突如虚空から発せられた声に反射的に肩を揺らして立ち止まった。
左側に広がっている長い廊下。
闇に沈んでいくように広がっているその一本道の奥。
その奥から声が聞こえたように感じた。
そういえばこの家から少し離れた場所に、この家と一本の筒のようなもので繋がっていた物置ほどの大きさの離れがあったように思う。
そう思い出した瞬間。
足は勝手に闇の奥へと駆け出していた。
あの離れは物置なんかではなく、あれこそが何かを閉じ込めていくための器だったのだ。

他の扉など目でもないくらい何重にも鎖が巻かれ、何個もの鍵がつけられた扉。
鎖をわしづかんで一気に引きちぎった。
投げ捨てた鎖が大きな音をたてて床へと叩きつけられ、そうして扉を乱暴に開け放った瞬間、全ての音が消えた。
正確には静雄の脳が音を認識しなくなったのだ。
それほどまでに静雄は目の前の雰囲気に飲まれていた。
凛とした、極限まで研ぎ澄まされた雰囲気は、その神聖さを通り越してある種の危うさまで感じられた。
例えるならばそれはガラスで作られたナイフのような透明さと鋭さ、そして脆さを併せ持っていた。
完全に飲まれていた静雄を現実に引き戻したのも、静雄をここまで引き寄せる原因となったあの声だった。

「誰。…何故、ここにあいつ以外の人間がいる。」

声の主は暗黒色の着物に身を包んだ、鴉のような艶やかな黒髪を持つ、静雄より幾ばくか年上の青年だった。
ただ肌だけが太陽を知らないかのように白い。
生まれてこのかた外に出たことがないのかもしれない。
ただその目元を包み込む、何度も何度も染め直したかのように黒い目隠しの布の存在が気になった。
その布をはずそうと半ば無意識に静雄は手を伸ばした。

「触るな。」

後ろからの切り裂くような声に再度肩が跳ねる。
猛獣でも閉じ込められていた方がまだ、ここまでビクビクすることはなかったかもしれない。
後ろに別の男が立っているらしいが、その男の放つ雰囲気にとても振り向く気にはなれなかった。

「…九十九屋。」

目隠しをしている方の男が呟いた。
後ろに立っている男の名前らしい。
目の前の男の雰囲気がほころんだことに驚きつつ、後ろを振り返ろうとしたとき、今まで微動だにしなかった目の前の男が動いた。
ゆっくりと手をあげて目隠しを外すその動作に静雄は目が離せなくなる。

そうして外された目隠しの下から現れたその瞳は、今まで静雄が見たこのとないような色をしていた。






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赤い色が禁忌なんだよきっと。
尻切れですけど続きません。
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