やっと、こうしてくれたね。 | ナノ
門田京平にとって折原臨也は手のかかる子供のような存在で、そこに邪な気持ちなど在りはしない。
…と。恐らく周囲は思っているのだろう。
自分の中にこのような昼ドラ顔負けのドロドロとした感情が渦巻いているなんてこと、誰が知っているというのだろう。
臨也ですら、この事には気付いていないはずだと、門田は思う。
気付かせてはならないと、高校時代からずっと、ひたすらに気を配っていたのだから。
…なのに目の前の。
この状況はどういうことだろう。
「…ドタチン?」
門田の目に映り込んだのは呆然とした臨也の顔。
「…臨也。」
苦虫を噛み潰したような、やけに切羽詰まった、苦しそうな表情の門田を見て、臨也の眉が微かにひそめられる。
それから臨也の頭の横に置かれたまま動こうとしない門田の手を一瞬だけ横目で見て、臨也は門田の底無し沼のような瞳を見つめた。
一方門田はこの、所謂押し倒された状況であるにも関わらず自分を見つめる臨也の瞳に嫌悪の類いの感情が映っていないことに、絶望にも似た感情を抱いていた。
聡明な彼のことだ。
このまま抵抗もせずにいればどうなるかぐらいわかっているはずだろう。
それでも抵抗しようとしない彼を見て、門田は嬉しさとも苛立ちとも違うドロドロに溶けた思いを抱えていた。
ナイフでもなんでも使って良いから、早くここから逃げてくれ。
彼は自分には今まで一度もナイフを向けたことなどないと承知の上で願った。
「…ドタチン。」
臨也の手が伸びてくる。
やけにゆっくりと、徐々に視界を遮るように目元へと伸ばされる。
「ドタチン。…泣いてる。」
門田に触れた臨也の手に、しっとりとした感触が伝わる。
その透明な液体は臨也の手を伝い、そうして滑り落ちた数滴が臨也の頬を濡らした。
門田の視界はほとんどが臨也の手によって黒へと変えられ、ただ緩く情婦のそれのように三日月の刻まれた口元だけが見えていた。
やっと、こうしてくれたね。
――――
親子愛じゃなくてちゃんとお互いに恋愛感情な二人を書こうとした結果がこれだよ。