ある昼下がりの | ナノ


「臨也さん。」

小さく、そっと口にのせたその言葉は、今にも壊れそうな儚さを伴って正臣の鼓膜を震わせた。
その言葉の示す先にいるその人は、今正臣の目の前でうっすらと紅潮した顔をさらして、浅い呼吸を繰り返している。

「…臨也さん。」

もう一度そっと、その存在を確かめるようにその名を呟けば、形の良い睫毛がふるりと震えて、その内の紅玉がゆっくりと姿を現した。

その瞳に射竦められ、正臣は息を吐くことができなくなった。
ちょうど息を吹きかけたガラス玉のようにぼんやりと霞んでいた臨也の瞳が、ゆっくりとその焦点を正臣へと結んでいく。

「……正臣くん?」

その声が正臣を現実へと引き戻した。
息を吸って、吐く。
あぁ、大丈夫だ。
ちゃんと吐ける。息を吸える。
自分の心臓はきっと、とっくに破裂してそこら辺に散らばってしまったんだろう。
先程まであんなにうるさく自己主張していたのに、今はそれさえ聞こえないほどの静寂が辺りを支配している。
正臣の耳へと届く音は、臨也の息づかいだけとなっていた。

もしくは、これが夢なのだろうか。
水の中を漂っているかのようにふわふわとした意識の中で正臣は思う。
臨也が万全の体調ならば、とてもこんな気持ちになることはできなかっただろう。
いつも臨也は、その紅玉のような瞳を細めて、意地悪く笑うから。
それだけで正臣はどうしようもなく心がざわついて。
まるで夢のようだと、思う。
悪夢かどうかは、まだわからないけれど。

指を伸ばして汗で張り付いている前髪を掻き分ければ、臨也がくすぐったそうに微笑んだ。



ある昼下がりの


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正臨かなり好きなんですよ。
しかしなんという雰囲気小説。
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