3 | ナノ


「それで九十九屋。今回は何日食べてなかったんだ?」

「…栄養は摂ってたぞ、一応。」

しれっと悪びれもせずに言い放つ九十九屋。
サプリメントや栄養食品だけで食い繋いでいたんだろう。
呆れてものも言えないとはこの事か。
実際、先ほど買ってきた食材をいれるために開けた冷蔵庫の中には本当に使っている人がいるのか疑うほど物が入っていなかった。
腐らせてはなんだと思い、必要最低限の物しか買ってこなかったので、今現在も冷蔵庫は大変寂しいことになっているだろう。

「…お前そのうち死ぬぞ。」

行儀悪く肘をついて溜めていた息を思いっきり吐き出しながら言えば、九十九屋はあの猫のような笑みを顔に張り付けたまま平然とのたまう。

「今まで平気だったんだから平気だろ。」

「アホか。こういうのは積み重なっていくからいけないんだろ。」


俺が食べ終わっても、九十九屋はまだもくもくとスプーンを口に運んでいた。
いきなりそんなに食べて平気なのか少し気になったが、本人がいたって普通なので放っておく。

その間にまだ途中だった部屋の掃除を再開させる。
書類の類いはいちいち九十九屋に確認をとってからでないと捨てられないので意外と時間がかかる。
すると背後に微かな気配を感じて振り返る。
見れば、ようやく昼食を食べ終わったらしい九十九屋が傍らに座り込んでいた。
こいつは異様に気配というものがない。
今でこそ微かながらも感じ取れるようになったが、最初の頃はそれこそ瞬間移動でもしたのかと思うくらい気配という気配を感じなかった。
そこに情報屋としての九十九屋の姿が存在していて、なんとも形容しがたい、複雑な感情が粘膜のように湧き出る。

当の本人はそんな俺の感情などお構いなしに自堕落な生活を送っていてそれがまた癇に障る。

「なぁ折原。」

「…何。」

俺は忙しいんだ手短に話せ。
言外にそう告げて一瞬だけ視線をやると九十九屋は例のいけ好かない笑みを浮かべてこっちを見ていた。

「お前は何でそう俺の世話を焼くんだろうな?」

ピクリと、片眉が一瞬つり上がるのが自分でもわかった。
九十九屋の放つ雰囲気が先ほどのそれと異なっている。
糸を思いきり引っ張っているときのような、ピンと張り詰めた雰囲気。
こいつと取引をしているときのような緊張感。
質が悪いのは、こいつの場合張り詰めた糸が四方に広がって逃げ道がないというところだろう。

「…情報のためだろ。」

「ふぅん?」

九十九屋の目が面白いものを見つけた子供のように細められる。
正直言ってこんな時は嫌な予感しかしない。

「じゃあお前は情報のためなら何でもするのか?」

そんなわけないだろ。
そんな言葉を放つために開かれた口はしかし、息を詰めるだけで閉じられた。

トン、と。
胸を押されて背中から書類の山に突っ込んだ。
整理したばかりの書類の束が舞い上がる。
それに少しばかり苛立ちつつ、死ねと音を表さず呟けば、重力にしたがって落ちていく紙の間から見えた九十九屋の目が、一瞬だけ光ったように見えた。





――――
何だこの誰おま状態。
整理した書類台無しにしたことには苛立っても押し倒されたことには苛立ってない臨也さんがポイントだよ!
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