2 | ナノ


「…アホだろこいつ。」

あらかた部屋を片付け終わっても九十九屋はまだ目を覚まそうとしない。
蹴飛ばしてみる。
ごろん。まだ起きない。
先程発掘した机の上に開きっぱなしで辛うじて電源だけは切ってある状態のパソコンが放置されていたから、どうせまた何十時間かぶっ続けで原稿に打ち込んでいたのだろう。
こいつは自分の気分が乗ってくると簡単にそういうことをしてのける。
逆に気分が乗らないときは何一つとして文を書こうとしないという、実に編集者泣かせの作家なのだ。
どうせ今回も何日かろくに寝てないんだろう。
本日何回目かもわからないため息をまたひとつこぼすと、とりあえずろくに食事もとっておらず栄養の足りていないであろうこいつを何とかするために重い腰をあげた。











「九十九屋、いい加減起きろ。」

簡単な昼食、炒飯やサラダを作り終わる頃になっても九十九屋はいっこうに起き上がる気配がなかった。
なので仕方なく、料理を作るために忙しなく動いていた手を一旦止め、九十九屋を起こしにかかる。

手加減せずに揺さぶる。
…起きない。
ゆさゆさゆさ。
…起きない。

「九十九屋、起きろ。」

それでもまだ起きない。
こいつは本当に俺が探っても探っても何も探り当てることができなかったあの九十九屋真一なのだろうか。
初めてあったときの抜け目のない行動と常人離れした雰囲気と照らし合わせるに九十九屋で間違いはないだろうに、ここ最近のこんな姿を見るたびにネット上での、あの悔しいくらい情報屋として完璧な九十九屋との差異に呆然とする。

そこまで考えて、またため息をひとつ。
と、途端にこののんきな顔で寝ている奴に対する苛立ちが浮かび上がってきた。
一片の迷いも躊躇もなく九十九屋の頭を力の限りはたく。

新宿の情報屋であるこの俺をここまで疲れさせることのできるやつは、後にも先にもこいつだけなんだろうなという、実に不本意なことを考えながら。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -