4 | ナノ


お前の全てが好きだよ。
そう言って九十九屋は唇を寄せる。

「この白く滑らかな手も。」

手に。

「薄く筋の浮き出る鎖骨も、首も。」

鎖骨に、首に。

「小さく、形の整った耳も。」

耳に。

「冷たく燃え上がるような瞳も。」

瞼に。

「艶やかな夜色の髪の一本一本すら。」

髪に。

「全て、愛しい。」

あぁ、俺はきっとどこかおかしくなってしまったんだろう。
そうだ、そうに決まっている。
そうでなければ何だってこんな奴にされるがままになっている。抵抗しない。

九十九屋は毒だ。
ふいに、そう思った。
それも遅効性の。
今までそれと気づかずに少しずつ摂取していて、気づいたときには身体中に回っている。
そんな、質の悪い毒。

あぁ、そうか。
なら、俺は。
毒の耐性なんかさすがにつけてやいない俺は。

この身体中に回った毒を、取り除く方法なんて残されてはいないじゃないか。

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