3 | ナノ
「何、簡単なことだ。」
そう言って九十九屋は俺の手をとる。
そのままその手を口元まで持ち上げて一言。
「お前に、会いたくなったから。」
どくん。
わけもなく心臓が跳ねた。
目が離せない。
その目に吸い込まれる。
なんだこれ。なんだこれ。
ふと、片手に違和感。
リップ音。
思考停止。
「……ッ!?」
カァっと、頭に血がのぼる。
熱に浮かされてろくに働かない頭のまま、腕を引かれてそのまま抱き締められる。
「好きだ、折原。惚れた。」
「は…!?何、言って…、っ離せ…!」
言葉が出てこない。
いつもそうだ。
他のやつら相手ならなにも考えなくても淀みなく出てくる言葉が、九十九屋相手になると途端に息を潜める。
だからこいつは苦手なんだ。
「なんだ、つれないな。」
「あ、たりまえだ!男に告白されて喜ぶやつがどこにいる!大体、そんな戯れ言…!」
と、そこで唇に指を当てられて必然的に口が閉じる。
「戯れ言とはずいぶんだな。俺は本気だぞ?」
「っ余計、悪い…!」
そうは言ってもなぁ。
呟きながら九十九屋が少し離れる。
そのまま流れるように額にキスをひとつ。
思わず息を詰める。
「そんな真っ赤な顔で言われても、脈有りとしか思えないぞ?」
そう言ってふわりと笑う九十九屋に、俺は初めてここに来たことを後悔した。