黄色い旗 | ナノ
彼女は学校のある日は、殆ど必ずそこに立っていた。小さな交差点に。
「おばさん、おはようございます!」
一人の子供が彼女に声をかける。たどたどしく、いつものように。
「あら、ちーちゃんおはよう。気をつけて行くのよ・・・あ、車が来たから待ってね。」
彼女はいつものように子供を誘導する。
元気な子供を見て、話して、車や自転車が来れば注意して守る。
この仕事は彼女の生き甲斐でもあった。
「いってきまーすっ!」
子供は元気に駆けて行く。前方にいた友達の元へ。
「いってらっしゃい。」
彼女は笑顔で手を振った。
「あ、おまえ。」
「あらあなた。」
ひとりの男性が彼女に声をかけた。夫だった。
「今日の朝ご飯はなんだ、塩分が多過ぎる!それから広告チラシがポストに残っていたぞ、あと・・・、」
彼は小言を始めた。
これも、何時ものこと。自転車に跨ったまま、朝の些細な失敗を挙げていく。
彼女は、それを聞きながら謝る。
彼にも失敗はある。しかし、言い返すことはできない。こわいから。
「あと何故豆腐を・・・「あのあなた、もうこんな時間よ!早く行かないと電車に遅れるわ!」
彼女は腕時計を見せた。
「大変だ!しかし帰ったらまだ言うことがあるから―――」
彼は自転車を漕いだ。
彼女は彼になにも言わない。
いつものように。
彼女は彼になにも言わない。
いつもとは違って。

彼は、彼女になにかを言うことはできそうにもなかった。
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