例えば、こんな話。 | ナノ
「レッドさんって、好きな人いるんですか?」
その日の会話は、彼女のそんな一言から始まった。
「………………………何、いきなり。」
「たっぷり間を空けましたね。」
だってそんないきなり聞かれても。
僕のそんな心情を感じ取って、コトネが再度口を開く。
「いきなりじゃないんですよ。ずっと気になってたんですから!」
いや、僕にとってはいきなりも同じだろ。
「まぁ、そうなんですけど!」
………。
コトネも目で会話するのに慣れてきたなぁ。
やっぱりグリーンの方がうまいけど。
…真剣に声を出す必要性がなくなってきたぞ。
まだ、ヒビキ君にはあんまり通じないけど。
「それで!いるんですか!?」
コトネの声で現実逃避から無理矢理引き戻される。
いや、一応グリーンがいるけどこれはコトネに言っていいものか。
あとで怒られるの、嫌だしなぁ。
「…そう言うコトネは、どうなの。」
僕が自分から話を逸らそうとそう聞くと、コトネは待ってましたとばかりに瞳を輝かせて捲し立てた。
「私はもちろんヒビキ君ですよ!幼馴染みなんでもうちっちゃい頃からずっと一緒にいるんですけどほんと優しくて!さりげなくはぐれないように手を繋いでくれたり車道側歩いてくれたり体調とかにも色々気を「ごめんコトネ、ストップ。」何でですかぁ!」
まさにマシンガントーク。
ものすごい勢いで捲し立て始めたコトネの言葉を、申し訳ないが遮らせてもらう。
話を逸らすという目的は果たせるだろうが、残念ながら精神が持たない。
「ていうかレッドさんですよ。レッドさんの好きな人はグリーンさんでファイナルアンサーでいいんですか?」
…バレてるよグリーン。
バレてるなら隠す必要は無いだろうと素直に頷く。
するとコトネからあがる黄色い悲鳴。
相変わらず女子のテンションはよくわからない。
「はえー、ラブラブですね!」
「…そうなのかな。」
コトネの言葉に僕がそう返すと、コトネは何が不思議なのかは知らないがキョトンと目を丸くした。
「…何が不満でもあるんですか?」
コトネの言葉に、今度は僕が目を丸くする番だった。
…不満?
不満、不満かぁ…。
あぁ、確かに、コトネの言う通り、グリーンへのこの感情には、不満という感情も混じっているのかもしれない。
「不満、っていうほどのことではないかも知れないけど…。」
こんなことをコトネに話していいものか、少し迷う。
コトネを見ると真剣な顔をしてこちらを見やっていた。
…コトネなら、大丈夫だろう。
「グリーン、…モテるから。」
瞬間、コトネの顔がクシャリと歪んだ。
「…何で、コトネが泣きそうな顔するの。」
文字通り、本当に、今にも泣きそうな顔でコトネが唸る。
「だってだってレッドさん!それ!その気持ち!凄くわかりますー!」
うーうー言いながら感極まったように飛び付いてくるコトネ。
…びっくりした。
なんか変な声が出た気がする。
そんな僕のことなどお構いなしで、相変わらずコトネは唸っている。
「聞いてくださいよレッドさん!」
「き、聞く。聞くからコトネ、ちょっとくるし、」
「ヒビキ君もですね!優しいのはかっこよくて大変GJなんですけど!誰にでも優しいから!こっそりモテるんですよぅ!」
…聞いてないな。
でも、コトネの表情の理由は大体わかった。
コトネも僕と同じような気持ちをずっと感じていたんだろう。
こんないい子を泣かしちゃダメじゃないかヒビキ君。
一人でうんうん頷いていると、突然コトネが首がもげるんじゃないかという勢いで顔をあげた。
「だからレッドさんデートしましょう!」
「………は?」
どうしてそうなった。
「私たちだけ嫉妬してるなんて不公平じゃないですか!」
あぁ、そういうことか。
これは、嫉妬という感情で。
あの二人にも同じ思いをしてもらおう、と。
少し、想像してみる。
グリーンが嫉妬しているところを。
「…いいよ。やってみようか。」
僕がそう言うと、コトネはまるで答えがわかっていたかのように笑った。
さっきみたいなかわいい笑顔じゃなくて、なんか悪っぽい顔。
…どっちも似合うところがすごいと思う。
「レッドさんも意外と独占欲強いですよね。」
フフフーと嫌な感じで笑うコトネ。
「嫉妬、してくれるといいね。」
正直、不安だ。
してくれなかったらどうしようという不安。
それはコトネも同じらしく、先程までの笑みは鳴りを潜めて、複雑そうな表情だった。
「…とりあえず、やってみるだけやってみましょう!」
「…そうだね。」
そうして、もう少しだけコトネと話してから、一緒に山を降りた。
不安は結構大きかったけど、笑って。
グリーンが、少しでも嫉妬してくれたらいいなと思って。
例えば、こんな話。
――――
この二人が可愛すぎて困る。