大海に沈む | ナノ


ただ、欲しいと思った。


はじめてその姿を見たときから気にはなっていた。
けれどここまで渇望したのはきっと、その性格、性質ゆえなのだろう。

眉目秀麗を体現したかのような容姿。
そう言ってしまって何ら差し支えのないほどに整ったその体。

初めはただため息が出た。

自分が以外と面食いなのだと知ったのは彼と出会ってからだった。

その誰のものにもならない双眸を、自分で染めてしまいたかった。

自分に染まってしまった彼は自分の望む彼ではないだろうに、それでもどろどろに塗りつぶしてしまいたかった。


だからこれは。
必然、なんですよ、臨也さん。











「…これは。なんの真似かな、帝人くん。」

あれほどまでに渇望していた存在が。
今。目の前にいた。

手錠によって両手の自由を奪われて、ベッドに縛り付けられているその姿のなんと甘美なこと!

「わかりませんか?臨也さん。」

「…わからないな。早く、外せ。」

あぁ、自尊心の高いその姿!

緩む口許を隠しもしないで言い放った俺に放たれた、その憎悪に染まりゆく紅玉の瞳!

そうです、それが。
それが欲しかった!

「簡単なことですよ、臨也さん。僕はあなたが好きでした。だから欲しかった。それだけです。」

訝しめられるその眉さえ、他の人に渡したくなかったのです。

「意味が、わからないな。」

君が好きなのは園原杏里だろう?

言外にそう尋ねられ、口許がさらに弧を描く。

「あなたは、自分に対する純粋な好意には、とことん疎いんですね。」

今まで、誰にも与えられなかったものだから。
だから、俺が。
与えてあげます。

「安里に対するものとこれは、まったくベクトルが正反対ですよ。僕が安里にこんなことするはずないでしょう?」

益々意味がわからないといった風に寄せられる眉。

その動作一つ一つを、自分が彼にさせているのだという優越。

「…まぁ、わからなくてもいいです。」

ピクリと、跳ね上がる眉。

この状態でも大きな表情の変化を見せようとしない彼に、俺は満面の笑みで、

「これからもずっと、よろしくお願いしますね。…僕の臨也さん。」

その瞬間、彼の目に微量の恐怖が浮かぶのを、俺は見逃さなかった。










大海に沈む
(あぁ、これ以上に愉快なことなどない!)


――――
心の中でだけ一人称が俺な帝人様って萌えだと思います。
最後まで安里にするか園原さんにするか迷った。
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