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折原臨也にとって九十九屋真一とは数少ない、それこそ唯一といっていいほど稀少な、苦手な“人間”だった。

唯一、九十九屋真一その人だけに、臨也は勝てなかった。
いや、他の人にも勝つことはできなかったことはあるかもしれないが、ここまで明白に“負けた”と意識することはなかった。

チャットの中でだけの間柄だが、自分が劣性に立たされるということは、臨也に九十九屋に対する苦手意識を持たせるには十分すぎる理由だった。

そして最近。
自分が探っても探っても割り出せなかった九十九屋の住所がわかったと、とある男から連絡が入った。

その情報が入ると同時に臨也は、その情報の正確性、安全性などを詳しく調べた。

にもかかわらず、何も“わからなかった。”
海外にも名を轟かす臨也が調べたのだというのに、その場所が現在誰に使われているのか、何に使われているのか、その他諸々、何もわからなかった。
ただそこに例の九十九屋真一がいるらしいと、それだけの情報しか出てこなかったのだ。

以上のことから、臨也はこれが罠だと判断した。

だが、臨也は現在、その“九十九屋真一がいるらしい場所”へと向かっている。

臨也は、罠にかかりに来たのだ。











臨也の住んでいる場所に負けず劣らず高級なマンション。

自動ドアをくぐると呼び鈴も鳴らさず直接暗証番号を入力する。
堂々と侵入すると臨也は若干、心なしか緊張した面持ちで真っ直ぐ、ひとつの部屋へと向かっていった。

数分で部屋にたどり着く。
部屋が近づくにつれ無音の威圧感が漂ってくる気がして、臨也の手のひらは少なからず汗ばんでいた。
それでも臨也はそんな自分の感情を極力態度には出さないように、なおかつ一瞬たりとも警戒を解かないように気を尖らせて呼び鈴に手を伸ばした。

呼び鈴としてひどく一般的な、気の抜ける間抜けな音が響く。

やはり臨也が来ることを知っていたのだろう、数秒でドアのロックが外れる音がして、臨也はドアノブに手をかけ、力を込める。

「…ようこそ折原。歓迎するよ。」

殺風景な部屋の中には、一人の男が浮き上がるように立っていた。

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