たこ焼き、焼きそば、わたあめ。その他諸々の屋台が並ぶここは都内でも有名な神社だ。祭りのような雰囲気だが、人々の目的は神輿でも花火でも屋台でもない。
一月一日。普段とは比べ物にならない程 今日は多くの参拝者で賑わっていた。

「臨也、賽銭五円でもいいと思うか?」

屋台が並ぶ参道をやっとの思いで抜け、賽銭箱の近くまでやってきた時、隣に居たシズちゃんが財布とにらめっこしながら聞いてきた。

「御縁があるようにって?あはは、シズちゃんらしいね。でもこの俺が居るっていうのにシズちゃんは運命の人の縁でも探そうっていうの?」
「なっ……違えよ!勘違いすんな。小銭がねえだけだ。っつか俺の運命の相手は……」
「うん、俺でしょ?」
「……っ!」

にっこりと笑えば、シズちゃんは顔を真っ赤にして口をぱくぱくと開閉してからふいっと顔を逸らした。こういう所 可愛いんだよなあ、シズちゃん。
彼の横顔を微笑ましく思いつつ、俺は財布から百円玉を四枚と十円玉二枚を用意した。420円。語呂を合わせると、しずお、となる。俺も相当なシズちゃん馬鹿だ。四の数字は不吉なんて言うけど、とんでもない。俺にとって420はラッキーナンバーなのだから。

「そういう手前は賽銭いくらにすんだよ?」
「教えなーい!」

シズちゃんに俺の乙女思考がバレる前に小銭を賽銭箱に放り投げた。

「あっ、手前!人の賽銭の額聞いて馬鹿にしておいて……!」
「馬鹿にはしてないでしょ。ほら、さっさと済ませるよ。後詰まってるんだから」

俺達の後ろにはまだまだ参拝の列が延々と続いている。
手を合わせて目を閉じていると、隣に居るシズちゃんも賽銭を投げる気配がした。

シズちゃん、何を思って手を合わせているんだろう。

(今年もシズちゃんと一緒に居られますように)

ありきたりだけどこれしか思い付かない。シズちゃんも俺と同じことを願ってくれているといいな、なんて。

「ねえ、何お願いしてたの?シズちゃんのことだから今年はプリンを毎日食べられますように、とかでしょ?」
「あ?子供の七夕じゃねえんだぞ」

どうやら心外だったらしい。ぐしゃぐしゃと髪の毛を乱暴に掻き混ぜられた。でもこれはシズちゃんの照れ隠しだって知ってる。
この照れ具合、もしかして、もしかするかも。

「何にやにやしてんだよ」
「べっつにー?何でもないよ。シズちゃんって本当に愛すべき単細胞だよね」
「……何だそれ。つまんねえこと言ってねえで帰るぞ」
「はーい」

当たり前のように手を引かれ、未だ慣れそうにないその行為が擽ったくてまた笑みが零れる。
にやにやすんなってシズちゃんに言われないように下を向きながら歩いていると、ドンっとシズちゃんの背中に頭を打った。地味に痛い。

「ちょっとシズちゃん!急に止まらないでよ!」
「……」
「シズちゃん?」

反応がないシズちゃんを不審に思い、彼の顔を覗き込む。シズちゃんの視線は俺には向けられておらず、何か別のものを捕らえていた。その視線の先を追って、……直ぐに後悔した。

シズちゃんは女の人、それも振袖を着た華やかな女性を見つめていた。
それだけでも十分堪えるのに、極めつけは

「やっぱ振袖だよなあ」

の一言。
それを聞いた瞬間、俺の中の黒い感情が渦を巻いた。
勿論俺は黒のファーコートで普段着。その俺を目の前にして、振袖の女に見とれるなんて俺への当て付けだ。

「……シズちゃんの馬鹿!タラシ!」
「あ?おい、臨也!?」

俺だって人間だ。嫉妬くらいする。そしてその面倒な感情を隠せる程、俺は出来た人間でもない。
耐えきれなくて、人混みを掻き分けてその場から離れた。
馬鹿なのは俺だ。
嫉妬深くて、女々しくて、シズちゃんが好きで苦しい。
この人混みではまず追い付かれないだろう。追い掛けて来て欲しい反面、あんな子供っぽい捨て台詞を吐いたものだから安堵もした。少しだけ距離を置きたい。

シズちゃん用の携帯電話の電源を切り、俺は一人で帰路に着いた。





家で一人、ソファの上で三角座りをして面白くもない正月番組を見ている今の俺の姿はさぞ滑稽なことだろう。本当ならば初詣の後、シズちゃんは俺の家に来る予定だった。本当ならば、俺の隣にはシズちゃんが居る筈だった。
そんな孤独を突き破るように響いたのは来客を告げるチャイムの音。でもシズちゃんじゃない。シズちゃんには合鍵を渡してある。
来客主を確認すると、どうやら配達の人らしかった。シズちゃんじゃないと分かっていたけど、やはり気分はガクンと落ちた。
しかし配達の人に八つ当たりする訳にはいかない。しっかりと荷物を受け取り、サインを済ませる。荷物を確認しようと玄関の扉を閉めようとした……が、扉はビクとも動かない。

「手前、何先に帰ってんだよ!」
「シ、シズちゃん!?」

配達と入れ違いになり現れたのはシズちゃんだった。シズちゃんがしっかりとドアノブを掴んでいるせいで扉が閉まらなかったのだ。

「ったく、本当に手前は勝手な奴だな」
「うるさいっ!シズちゃんのせいだろ!」
「は?俺のせい?」

この男、俺が何で怒ってるのか分かってないらしい。それがまた俺の怒りを煽る。

「シズちゃんが、振袖着た女相手に鼻の下伸ばしてるから!」
「何言って…………あー、……なるほどな」

シズちゃんは暫く考えた後、思い当たる節を見付けたのか納得したように呟いた。

「勘違いしてんじゃねえよ、馬鹿」

ぎゅう。
靴脱ぎ場の狭いスペースでいきなりシズちゃんに抱き締められた。バタン、と背後で玄関の扉が締まる音。

「勘違い……?嘘だ。だってシズちゃんは確かに……」
「ああ、見てた。振袖をな。見てたっつーか、想像してた」
「何を?」

シズちゃんの腕から逃れ、真正面で向き合う。人間観察なら得意だ。嘘くらい見破れる。

「……臨也の振袖姿を、想像してた」

沈黙。
予想外の答えに俺は暫く開いた口が塞がらなかった。
シン、とした空気を破ったのはシズちゃんだった。

「その荷物」
「えっ、あ、これ?」

先程届いた荷物を指しているらしい。そういえば何が入っているんだろうか。

「それ、臨也に着せようと思って幽に頼んで発注して貰ったんだ、振袖」
「よく、意味が、分からないんだけど」
「だから振袖だっつの。臨也なら似合うと思ってよ。驚かせようと思って内緒にしてた。まあ初詣には間に合わなかったがな」

じゃあ、俺は勝手に勘違いして、勝手に嫉妬して、勝手に怒って、勝手に帰って来ちゃったってこと?
うわ、恥ずかしい……。

「ごめん、俺……シズちゃんが振袖の女の人見てたから、やっぱり女がいいんだとか思って……嫉妬とかしちゃって、一人で帰って来ちゃって……」
「言わなかった俺も悪かったから、気にすんな。それより、早速着てくれよ、それ」

普段ならこんな女装みたいなものお断りなんだけど、今日は特別。
シズちゃんの今年一つ目の煩悩、叶えてあげるよ。

その代わり、振袖姿の俺のこと うんと誉めてくれなきゃ嫌だからね。






























20110109
あけましておめでとうございます!静雄と臨也は今年も幸せそうで何よりです^//^今年もよろしくお願い致します。



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