(高校三年生/静雄が大学受験生という捏造話です)




明日から冬休み。窓の外を見れば白銀の世界。今日は一段と冷え込み、夜中から朝方にかけて雪が降った。東京でここまで雪が積もるのは珍しい。加えて今日は24日。クリスマスイブだ。
だと言うのに、俺の気分は灰色だった。
高校三年生のこの時期、空気は張り詰めどこかピリピリとした緊張感が漂い、俺以外にもセンター試験を控えているほとんどの奴は浮かない顔をしている。
ぱっとしない結果だった成績表を鞄に入れ、帰ろうと席を立った。その時。

ぼすんっ

と後頭部に衝撃が走った。と言っても俺からしたら痛くも痒くもねえが。

「冷て……っ」

痛みはないが、とんでもなく冷たい。

「シーズーちゃん。遊びましょー」

後ろを振り向くと、窓の外に雪玉を持った臨也がにやにやと笑っていた。
なるほど、あの玉を俺に当てたってことか。道理で冷てえ筈だ。よし、殺す。
俺のクラスは一階にある為、窓から外に出ることが出来る。俺は上履きを履いたまま窓を越えて外に出ると、直ぐ様足元に積もっている雪で玉を作った。

「あれ?静雄も臨也の遊びに付き合ってあげるのかい?」
「あ?」

教室からは見えなかったが、新羅と門田も一緒だったみてえだ。門田はマフラーを首に巻いて寒さで赤くなった手に息を吹きかけている。新羅はマフラーに手袋、耳当てと防寒対策はばっちりだった。

「全く、雪ではしゃぐなんて臨也も子供だよね。今朝セルティも雪を見て綺麗だって言いながら喜んでいたけど、私からしたらセルティの雪のように白い肌の方が断然綺麗だと思うな」
「新羅うるさい!っていうかはしゃいでないから!変なことシズちゃんに吹き込まないで!」
「静雄とも遊びたかったんじゃないのか」
「ちがっ、ドタチンまで……!」

新羅と門田の言葉に臨也は慌てたように弁解する。臨也の耳は真っ赤に染まっていた。

「へえ、臨也くんは俺に遊んで貰いたかったのか」
「あ、あははっ、何勘違いしてんだか。君が退屈そうにしてたから、仕方なく俺が遊んであげるんだ、よ……!」

ひゅ、と風を切って飛んできた雪玉はまたしても俺の頭に直撃した。
砕けた雪玉がぱらぱらと俺の目の前で散っていく。

「あはっ、シズちゃん、頭に雪乗ってるよ!雪だるまみたい!かーわいい」
「……臨也……手前、相当俺に遊んで貰いたいらしいなあ!雪に埋もれて死ね!」

手の中で雪を圧縮しカチカチに固まった雪玉を臨也に向かって思い切り投げつけてやった。……が、臨也はひょいっとそれを交わして意地の悪い笑みを浮かべる。

「シズちゃんのノーコン!へたくそー!」
「また臨也は静雄を煽るようなことを言って……。分かってるのかい?静雄の投げた雪玉は砲丸と紙一重と言っても過言ではない。もし臨也にそれが当たったとして、治療するのは誰だ?僕だろう!?そんなの面倒くさ……、べほっ!ちょ、臨也!口に雪入ったんだけど!」
「ナイスコントロール、俺!」

臨也が再び投げた雪玉は俺ではなく新羅に命中。

「お前ら寒くねえのかよ。俺はもう帰るぞ」
「門田くん!抜け駆け禁止!」

溜め息を漏らしながら背中を向けた門田に向かって新羅は雪を投げる。

「そうだよ、ドタチン!帰らないで!シズちゃんから俺を守って!」
「手前、臨也!ちょこまかしてんじゃねえっ」

俺と臨也は既に本気の雪合戦をおっぱじめ、悪気はないものの流れ弾がいくつか新羅や門田に当たってしまった。

「お前ら、いい加減にしろ!」
「わっ、ドタチンが怒ったー」

完全に被害者である門田はとうとう耐えられなくなったのか、無遠慮に俺達に雪玉を投げつけてきた。

「門田くんが止めに入らず加勢するなんて珍しいじゃないか!」
「たまには仲間に入れてくれたっていいだろ?」
「手前、臨也!どさくさに紛れて俺ばっか狙うな!」
「シズちゃんが余所見してるからでしょー?」

もうそこからはただの雪合戦。誰に当てようが当てられようがお構い無し。
手は霜焼けしてるし、溶けた雪が上履きに染み込んで来て冷てえ。
だけどそんなの気にならない程に雪合戦に没頭した。




「あー、疲れちゃったよ。セルティー!私を今すぐ抱き締めてくれ!」

どさ、と雪の上に腰を降ろした新羅をきっかけに、何十分も続いた雪合戦は終幕を向かえた。
俺も地面に座り込む。寒いのに息は上がっていて、雪でこんなに遊んだのはガキの頃以来だな、なんて思った。

「シーズちゃん」

その呼び方は止めろって言ってんだろ、いつもの決まり文句は言うだけ無駄だと思い、「何だよ?」とだけ応えておく。

「これあげるよ」

赤い色をした何かが宙を舞う。
意味深に笑いながら臨也が投げたそれをキャッチした。

「……んだ、これ」
「お守りだよ。見て分かるだろう?受験を控えて冬休みを楽しもうにも楽しめないシズちゃんに、せめてものクリスマスプレゼント……とでも言っておこうか」

合格祈願。
お守りには金色の糸でそう綴られていた。思わぬ臨也からの贈り物に放心していると、新羅と門田もそれぞれお守りを差し出してきた。

「俺はこれ。やっぱり健康が一番だしな」
「僕からはこれ」
「門田の健康第一っつーお守りは分かっけど、新羅の恋愛成就って何だよ」
「恋愛成就ってどういうこと?えっ、シズちゃん好きな人居るの!?」
「う、うるせえっ!臨也には関係ねえだろ……ッ!手前はにやにやすんな!」

俺と臨也のやり取りを見てにやついている新羅を小突く。ったく、俺は今恋愛どころじゃねえんだよ。勉強して、大学に合格して……臨也に告白すんのはその後だ。

「とにかく……その、ありがと、な」
「推薦組の俺達の気遣い、無駄にしないでよね、シズちゃん」
「手前は一言多いんだよ、ノミ蟲」
「ま、とりあえずセンター試験か。頑張れよ、静雄」

そう応援の言葉をかけてくれた門田はまるで父親のように見えた。そんな門田に続いて新羅も口を開く。

「僕も応援するよ。理系ならいくらでも教えるし。ね、臨也?」

新羅に話を振られた臨也は慌てたように目を逸らし、小さく頷いた。

「……仕方ないから、応援してあげるよ」
「……っ」

臨也らしくない仕草と言葉に、不覚にも胸が高鳴る。だから、恋愛どころじゃねえって言ってんだろ、しっかりしろ俺!

手の平の中にある3つのお守りを握りしめながら、今日は大嫌いな数学の教科書を開こうと決意した。

























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