必要最低限の家具と、それでいて生活感の漂う部屋。本棚にはハードカバーから新書や文庫本まで様々なジャンルの本が並んでいる。
今日はお家デートってやつだ。

「千景、コーヒーでいいか?」
「おう。ありがとなー」

門田の家にお呼ばれされたのは初めてではない。だというのに、まるで初めて女の部屋に上がった男子中学生のようにそわそわとしてしまう。俺だけが緊張しているのも情けないので、何とか平静を装う。
気を紛らそうと近くにあった雑誌をペラペラと捲ってみる。ファッション誌ではなく、東京案内の雑誌らしい。ところどころに付箋で印が付いていた。

……あれ?

付箋の貼られたページを見ていると、あることに気が付いた。
ここの居酒屋も、ここの飯屋も、行ったことがあるんだ。どれも、門田とのデートで。

あれ、まさか。

「千、景……、それは……!」

コーヒーの湯気が立つマグカップを2つ持ちながら、門田が動揺の色を浮かべる。門田が動揺すんなんて珍しい。

「あんた…もしかして、デートのプランとか前々から考えてくれてたのか」

にやつく口元を隠しもせずに問いかけると、京平はマグカップをテーブルに置いて決まり悪そうに小さく頷いた。

「うわ、今 門田がすげえ可愛く見えるんだけど」
「なっ、…俺をからかったって面白くも何ともないだろ」
「冗談のつもりで言ったんじゃないんだけど?」

胡座を掻いて頭を抱えている門田の膝に手をつき身を乗り出す。

「おい、千景っ」
「うん?」
「コーヒー、冷めるだろ……!」
「後でまた煎れ直してよ。いいだろ?な、京平?」
「……ッ」

口元に手の甲を当てて視線を泳がす門田。門田は俺に名前で呼ばれると弱いんだってさ。本当、かーわいいよなあ。

「……俺じゃねえだろ」
「何が?」

小さく呟かれた門田の言葉に首を傾げると、門田は顔を背けつつ俺に視線を向けて、

「可愛いのは、お前。千景の方だろ」

と言った。

「へ?」

驚きに目を丸くさせる俺。多分今の俺、間抜けな顔してんだろうな。
門田の口からそんな言葉が飛び出すとは思わなかった。普段のこいつって、何て言うか、いつだって冷静であんまり恋愛に熱くなったり甘い台詞なんて吐くタイプじゃねえから。
聞き慣れない言葉の意味を理解した途端かあっ、と顔が熱くなった。
ただ、可愛い、と言われただけ。その些細な一言は、俺の心臓を壊すには十分な一言だった。

「おい、黙るなよ。何か居たたまれねえだろ」
「えっ、あ、悪い」

照れくさそうに頬を掻く門田の姿に、また胸がきゅうっと締め付けられる。

「門田」
「なん、だ……っ!?」

いつから俺はこんな獣みたいなキスをするようになったんだろう。女の子には優しく紳士的に付き合ってきたのに。門田と居ると感情がコントロール出来ない。今だってこんな衝動的にキスしてさ。きっと門田も吃驚してる。
……と思いきや、吃驚させられたのは俺の方だった。口内にぬるりとした感触。

「ん、……はあっ、きょ、へい……、んンっ」

肉厚な門田の舌が俺の口腔に侵入し、俺のそれを絡めとる。門田に合わせて舌を動かすと、くちゅり、と湿った水音が俺達を煽るように鼓膜を揺らした。
互いの唾液を交換し合いこうして身体を密着させていると何かが満たされていく気がする。

「千、景……」
「ん、あ……京平…」

口端から唾液が伝うのも気にせずに、再び角度を変えて深く口付け。そのまま雪崩れ込むようにベッドに身体を沈めた。





気付いたら外は真っ暗で、時計を確認するともう日付が変わる頃だった。
門田も同じように時計を見て苦笑を漏らす。

「今日はシチューでも作ってやろうと思ってたんだがな……」
「もう夜中だしなあ。まあ、またの機会ってことで」
「ああ、悪いな」

門田に抱き着くと頭を撫でられる。情事後のこの時間が俺は好きだ。ちなみに致した後だから俺達は下着だけ身に付けて上半身は裸。その胸元に擦り寄り、ちょっと意地悪く笑ってみせる。

「いやあ、でも珍しくお盛んだったな」
「……黙っとけ」
「んっ、ははッ、擽ってえ」

額や頬、鼻の頭に唇と啄むようにキスをされ、恥ずかしさと嬉しさが混ざって擽ったい気分になっていく。

「なあ、門田」

そして、止まることを知らない時計の針の音を聞きながら俺は考える。この部屋に来ると毎回思うことだ。

「何だ?」
「今、俺が何を考えてるか分かるか?」

門田は少しだけ考える仕草を見せ、俺をきつく抱き締めて耳元で囁いた。

「……俺と同じこと考えてたらいいな、とは思ってる」

門田の心地よい声が脳髄まで響き渡り、ぞくりと背が震える。お返しに俺も門田の耳に唇を寄せて言ってやった。

「半分、当たり。多分もう半分も……当たりだろうな」




この時間がずっと続けばいいのに。時計なんか止まればいいのに、ってよ。俺は考えてる。






























20101222
大変遅くなってしまい、申し訳ございません…!ドタチンとろっちーは書き慣れていないのですが、この二人大好きなので思いの外すらすらと楽しんで書くことが出来ました^^*ろっちーが乙女なのはわたしの趣味です、すみません!この二人はもう同棲すればいいと思います!では、リクエストありがとうございました!



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