(来神時代/原作8巻の挿絵ネタ)






いつもの池袋。でも今日は何だか違って見えた。人間観察も出来ない程余裕がなくて、何度も何度も携帯で時間を確認して、女子じゃあるまいし意味もなく髪を触ってみたりして。
本当に自分らしくない。でも、仕方ないじゃないか。だって、今日は、シズちゃんとの初デートなんだもの!
学校以外で会うのは初めて。私服を見るのも初めて。そんなの緊張しない方がおかしい。

待ち合わせ時間まで後5分。
やっぱり早く着きすぎちゃったかなー、なんて思ってたら、

「臨也」

後ろから声を掛けられた。
シズちゃんだ。制服じゃないシズちゃん。ジャケットにジーパンっていう普通の格好なのに、俺にはシズちゃんが輝いて見えた。本当に、いつの間にこんな少女漫画のヒロインみたいな頭になっちゃったんだか。

「や、やあ、シズちゃん!早かったね!」
「……手前こそ、早かったな」
「俺も今着いたとこなんだよね!」

本当は30分前に着いてたけど。

「あー…、じゃあ行くか」
「うん」

シズちゃんの後ろを着いていくようにして歩く。池袋は相変わらず人が多いけれど、シズちゃんは長身だし金髪だし目立つからはぐれることはない。
ああ、後ろ姿も格好いいな、なんて思ってたらシズちゃんが後ろをくるりと振り向いて手を差し出してきた。

「おい、手」
「手?」
「手前歩くの遅いんだよ」
「う、わっ」

ぶっきらぼうに言いながら俺の手を引くシズちゃん。その耳が赤いのは寒いせい?それとも……

「ははっ」
「何がおかしいんだよ?答えによっては今すぐ犯す」
「それは横暴過ぎるなあ」

(でも、そうか……。シズちゃんも俺と同じ気持ちってことか)

デートが気恥ずかしくて、照れくさくて、でも幸せでふわふわと浮わついて。
シズちゃんの手は大きくて暖かくてとても安心した。

「何か言ったか?」
「何でもないよ。シズちゃんはかっこいいなーって」
「……思ってもいねえこと言ってんじゃねえよ、ノミ蟲」
「えー?本当に思ってるのになあ」

そのままじゃれ合うように軽口を叩きながら60階通りへ。特に予定を立てたデートでもないので、ぶらぶらと歩く。
ふと、ゲーセンのUFOキャッチャーが目に入った。

「あ?どうかしたか?」

無意識に足も止まっていたらしい。
シズちゃんが訝しげに首を傾げた。

「え、あー……大したことないんだけど。丁度新しいスリッパが欲しいなあって思っててさ。ほら、冬場って足元から冷えるし」
「スリッパ?……って、あのUFOキャッチャーのか?」

俺はこくりと頷く。UFOキャッチャーの商品にされているスリッパ。可愛らしいウサギ型のそれはもふもふとしていて暖かそうだった。

「取ってやるよ」
「えっ?」
「欲しいんだろ?」

チャリンチャリン、と俺が答える前に200円(スリッパが商品ということもあって一回200円だった)を投入するシズちゃん。

「シズちゃん、UFOキャッチャー得意なの?」
「あんまやったことねえから分かんねえ」

UFOキャッチャーのアームを見守りつつ、シズちゃんの横顔をちらりと見遣る。
……うわ、すごい真剣な顔。
今まで見たことのないような真剣な表情でアームを操るシズちゃんはすごくかっこよかった。

だけど残念ながら重点がズレたらしく、スリッパは少し浮いただけで最後まで持ち上げることが出来なかった。

「あっ、くそ、持ち上がったのによぉ……」
「あー、惜しかったね」

チャリン。
そして再び硬貨が投入される音。

「シズちゃん!?まだやるの!?」
「手前、悔しくねえのかよ」
「別に勝ち負けじゃないし、大体こういうのはアームが弱く作られているものなんだよ。スリッパならいつでも買えるし……」
「あー、ごちゃごちゃうるせえ、気が散る!臨也はそこで黙って見てろ!」

どうやらシズちゃんの中で何かのスイッチが入ってしまったらしい。
それから20分。

「ねえ、もういいよ、シズちゃん」
「ここまで来て諦められっか!両替してくる!」

確かにあともう少しで取れそうだけれども。
何か気付けばギャラリーも居るし恥ずかしいというか……。

「今度こそ取ってやる」

もう何度目になるか分からない挑戦。
シズちゃんのアーム捌きも様になってきた気がする。
アームが右に動き、続いて奥へ。あ、丁度いい位置かも。アームが開き、ガシ、とスリッパを掴む。そしてそのまま持ち上げ――……


頼む、耐えてくれ!
祈るようにアームを見守る。
景品口まで後少し。もう少し!
あっ、イケる、かも……!


アームは景品口の上で開き、ガタン、という物音と共にスリッパが落ちてきた。

「やっ、た……取れた……!臨也、取れたぜ!」
「シズちゃん……!」

景品口からスリッパを取り出し満面の笑みを浮かべるシズちゃんに思わず抱き着く。何故かギャラリーからも拍手が沸き上がった。

「折角取ってやったんだから大事にしねえとぶち犯すからな?」
「大事にするに決まってるでしょ。ありがとう、シズちゃん」
「おう」


シズちゃんから受け取ったスリッパをぎゅう、と抱き締める。
これがシズちゃんからの初めてのプレゼント……ってことになるんだよね。これは、うん、大事にしなきゃ。大人になっても履いてやる!








(よし、もう一回やるぞ)
(え、何で?)
(将来一緒に住むことになったら俺と手前の分で2セット必要だろうが)
(……っ!)



















20101126
臨也のウサギスリッパの経緯がこうだったらいいなという捏造話でした!あのスリッパ本当に可愛いですよね!

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