また寝不足の日々が続いた。寝るとあの夢を見るからだ。臨也と会える唯一の夢の中。しかしその内容はあまりにも残酷だった。頭が寝ることを拒否する。いくら疲れていて身体を休ませようとしても、浅い眠りで何度も目が覚めるか、あの夢を見て目が冴えてしまうか。
仕事に支障が出てトムさんに迷惑を掛ける前に何とかしねえと。
そう思って、新羅のマンションを尋ねた。あいつも一応医者だ。睡眠薬でも貰おう。夢なんて見ないくらい、強力なものを。

話があるから今から行く、とメールを入れて新羅の家に向かう。新羅と会うのは臨也の葬式以来だ。
インターホンを押して待っていると、直ぐにドアが開いた。

「やあ、いらっしゃい」
「……邪魔するぜ」

家に上がり、ソファに腰を降ろす。ふと、臨也が事故に遭った日にもここに来たことを思い出した。死んだ臨也が寝かせられていた部屋は襖で閉められている。

「さて、早速だけど何の用かな?見たところ怪我はしてないようだけど。そもそもメールには話があるって書いてあったしね」

新羅も向かい側のソファに座り、話を聞く体制に入った。

「ああ、あのな……」

俺は夢のことを新羅に話した。夢に臨也が出てきたこと、臨也は俺を憎んでるんじゃねえかってこと、それが原因で寝不足なこと。

「……だからよ、睡眠薬くれねえか。なるべく、強力なやつ」

一通り話しを終え、新羅の言葉を待つ。今まで黙って俺の話しを聞いていた新羅は複雑な表情で笑って、

「静雄がそんなに繊細な心の持ち主だなんて知らなかったよ」

と言った。その言葉だけを聞いたら俺はキレていたかもしれない。だけど、今の新羅の表情は人を馬鹿にしているようには到底思えなかった。眉を下げて、少し悲しそうに笑っている。
新羅はもう臨也の死を乗り越えているのかと思っていたが……違うらしい。新羅は臨也を邪険に扱っているようなところもあったけど、それも長い付き合いから来る馴れ合いやじゃれ合いだったのかもしれない。

「……ちょっと待ってて」

おもむろに立ち上がり、新羅は別の部屋に行ってしまった。
睡眠薬を探しに行ってくれたのか?
暫くして新羅が帰ってきたが、その手には薬ではなく携帯電話が握られていた。

「この携帯、静雄なら見覚えあるよね」

見覚えのありすぎる黒色のそれを見た瞬間、俺は目を見開き言葉を失った。

「っ、そ、れは……」
「臨也のだよ。臨也の携帯。遺品として私が預かっていたんだ。これを見せたら君が後悔すると思ったんだけどね。多分、今の静雄には臨也の言葉が必要だと思うから見せるよ」

どくん、どくん、と心臓が大きく跳ねる。新羅が臨也の携帯で何やら操作をし、メールの送信ボックスを見せてきた。
恐る恐るそれを手にし、新羅の方を伺う。新羅は少し困ったように笑って、

「その未送信のメールを見てごらん」

と言った。
確かに、一番上のメールだけ未送信のまま送信ボックスに残っている。
そのメールの内容を確認し、本文に目を通す。そこには、







『シズちゃん、俺も酷いこと言ってごめんね。明日の夕方、待ってるから。シズちゃん、愛し』







と書かれていた。

「多分、それを打っている時に車に轢かれたんだろうね。文の最後が中途半端に切れているだろう?まあ、君に何を伝えようとしたのかは一目瞭然だけどね」

臨也は、『シズちゃん、愛してる』と言いたかったんだろうか。
心臓が痛い。目の前が真っ白になる。ただ、新羅の言葉ははっきりと耳に入ってきた。


「臨也は静雄を恨んでなんかないよ」


……救われた気がした。
臨也は俺を恨んでない。喧嘩したまま死別したのかと思って、もう二度と謝れないことを悔やんできた。
でも違った。

臨也は俺を愛したまま、死んだんだ。


「……臨也…っ、臨也、臨也、臨也ぁ……!」

今まで流れることのなかった涙が自然と頬を伝い、臨也の携帯を濡らしていく。

「本当に、君達は昔からすれ違いが多いね……、僕を、巻き込まないでくれるかな……」

鼻をすすりながらそう呟いた新羅の瞳にも涙が浮かんでいた。






この時、新羅は俺が何を思ったか知らないだろう。


『……臨也…っ、臨也、臨也、臨也ぁ……!(会いたい……)』



俺は一人、臨也の後を追おうと決めていた。




















20101119



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