(※臨也視点)






一時はどうなるかと思った劇も無事に成功に終わり、俺はドタチンと新羅と一緒に校内の出店を見て回っている。
お目当てだったクレープは途中で飽きてドタチンにあげちゃったけど、たこ焼き型シュークリームは食べやすくてなかなか美味しかった。

生徒達はそれぞれのクラスTシャツを着ていて、どこからか吹奏楽の演奏も聴こえる。生徒の一部は顔にペイントをしたり、女子はお揃いの髪型にしてみたり。

「皆楽しそうだねえ」

周りのキラキラとした雰囲気に付いて行けずそう呟くと、新羅がクスクスと嫌な笑みを浮かべた。

「静雄が居ないからだろう?臨也が退屈なのは。さっきから姿が見えないもんね」
「はあ?何でシズちゃんが出てくるのさ!?」
「そういや何処に行ったんだろうな、静雄の奴。どっかで喧嘩吹っ掛けられてなきゃいいが」

ドタチンまでシズちゃんの名前を出してきた。
そういえば、元はと言えばシズちゃんの要らない提案のせいで俺が劇に出ることになっちゃったんだよね。……あ、何かむかついてきた。今すぐ罵ってやりたい。

それだけじゃない。
最近シズちゃんの名前を聞くだけで胸の奥がつっかえるような気がして、モヤモヤする。その原因が分かりそうで分からなくて、またモヤモヤ。本当に苛々する。
だから文化祭の用意は出来るだけシズちゃんを避けてドタチンの練習に付き合っていた。

(俺、おかしくなっちゃったのかな)


「あ」

新羅の声で、ハッと我に返る。

「え、何?どうしたの?」

俺が聞くと、新羅は窓の向こう側の中庭の方を指差して、

「静雄、居たよ」

と言った。
新羅の指の先を辿ると、確かに金髪が視界に入った。
シズちゃんだ。
正しくは、誰かと一緒に楽しく談笑しているシズちゃん、だ。

「誰、あれ。見かけない顔だけど」
「さあ?僕も知らないな。私服……ってことはこの学校じゃないね。それに私達よりも年上っぽいし」
「静雄にも、あんな親しげに話せる奴が居たんだな」

新羅とドタチンの言う通り、シズちゃんにあんな親しい仲の年上の人がいるなんて知らなかった。

ちくり、と心臓を針で刺したような感覚に襲われた。どうしようもない苛立ちを抱えて、勢いよくシズちゃんから視線を逸らし、早足でその場から立ち去る。

「臨也!?」

新羅の声が俺の背中を追うが、

「ごめん、一人にして」

俺はそのまま階段を駆け上がった。



階段を一段一段上っていく途中、俺の頭はシズちゃんで埋め尽くされていた。
あんなに無邪気に笑うシズちゃんは知らない。
シズちゃんの笑った顔が可愛いとか思った自分にも驚いたけど、それ以上にその笑顔が自分に向けられたものではないということに対して悲しくなってる自分に驚いた。

多分、嫉妬……、してるんだ。
シズちゃんの隣に居たあの男が羨ましい。
俺もシズちゃんの隣で笑い合いたい。喧嘩なんかじゃなくて、正面から向き合いたい。

ちくちくと痛む胸も、じわりと涙の膜で滲む視界も。全てはシズちゃんのせい。


屋上へと続く階段の踊り場で、壁に背を預けてずるずるとしゃがみ込む。
瞼を閉じると、シズちゃんの顔が浮かんだ。喧嘩をしている時の怒った顔、いつだか一緒に帰った時の一瞬だけ見せた照れくさそうな顔、テスト勉強の時の赤く染まった顔。
そしてさっき見た、笑顔。他の人間に向けられたそれにひどく焦がれる。

俺も、シズちゃんの笑った顔が欲しい。シズちゃんの全部が欲しい。
そんな子供のような独占欲から見出だしたもの。


ああ、そうか。











俺、シズちゃんが、好きなんだ。




























20101110
自覚、臨也編でした!



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