(※静雄視点)




体育館から離れて廊下を歩きながら、そういえば臨也にクレープとシュークリームを買っていなかったな、と気付いた。だけどそれらを買ったところで臨也に渡せるだけの余裕が今の俺にはない。
屋上に行って文化祭なんかサボっちまおうか。
そう思った時だった。

「おい、静雄だよな!?」

背後から声を掛けられ、視線をそちらにやる。

「……トムさん?」
「おう、久しぶり。遊びに来てやったぜ」

トムさんは俺の中学の頃の先輩だ。懐かしいその顔と声は何故か安心するものがある。

「静雄のクラスは何やってんだ?」
「シンデレラの劇っす。俺は大道具の係なんで今日は出番ないんすけど……」

脳裏に門田と臨也の姿が浮かび、トムさんの前だというのに無意識に眉間に皺が寄ってしまう。

「んじゃ、暇だな?」
「え?」
「一緒に回んべ」

ぽんぽん、と俺の頭を軽く叩くトムさんは、俺が悩んでいることに気が付いている風だった。





「最近よ、あんまお前の噂聞かなくなったから楽しくやってんだと思ってたけど……違えのか?」

中庭のベンチに座り、ジャガバターを食べながらトムさんが口を開いた。

「何で分かるんすか」
「ははっ、静雄は分かりやすいんだよ」
「そっすか……」

俺も買ってきた焼きそばをつつきながら言葉を選ぶ。

「確かに、あいつが変な企みしてこねえから喧嘩はしてないっす。する必要がないというか、したくねえというか……」
「あいつ?」
「あいつ……折原臨也っていうんすけど、最近そいつを見るとモヤモヤして仕方なくて、前まではただうぜえ奴としか思わなかったのに…こんな気持ち初めてで、もうどうしたらいいか分かんねえ。それに……ってすんません。こんな話……」

何で俺はトムさん相手に感情的になってんだ。

「気にすんな、続けていいぞ」
「……いいんすか?」
「話聞くくらいしか出来んけどな」

俺、本当にいい先輩を持ったな。
一人で悶々としてるより、誰かに話を聞いて貰った方がいいのかもしんねえ。
自分の気持ちを整理したかったのもある。
俺はトムさんの言葉に甘えて話を続けた。

「俺、多分臨也のことが好きなんだと思います。でも、今まで喧嘩ばっかしてきたから、それ以外の接し方が分かんねえんです。一回だけ一緒に帰ったんすけど、ギクシャクしちまって……っつか俺が意識してるだけかもしんねえ、けど。それに、あいつが他の奴と一緒に居ると苛々する。でもそんな、こ、恋人でもねえのに口出し出来ねえから一人で勝手に嫉妬して……、馬鹿みてえですよね。馬鹿みてえだけど、きっと臨也は俺を嫌ったままだろうけど、それでも、……臨也が欲しくてたまらねえ」

もう自分でも何を言ってるのか分からない。黙って聞いていてくれたトムさんに悪い気がする。でも、人に言うことで自分の気持ちを再確認出来た。


俺は臨也が好きだ、と。


「それをさ、そいつに言ってやればいいんじゃね?」
「……え」

トムさんの予想外の言葉に一瞬何を言われたのか分からなかった。

「もしかして考えたことねえのか?告白だよ、告白」
「こ……!?…くはく、です、か」
「おう。好きだー、って言ってやんべ、そいつに。もしかしたらってこともあるかもしんねえぞ」
「告白……」

考えもしなかった。
今までは自分の気持ちの変化にただ驚くだけで、好きだと伝えるというところまで頭が回らなかった。

「結果より、気持ちを伝えることが大事ってよく言うしな。頑張ってみろよ、静雄」
「……っす」

臨也が他の奴と居るのが気に食わねえ。それなら、俺だけを見ろって言えばいい。
何だ、そんな簡単なことだったのか。

あまりにもシンプルな答えに、思わず笑ってしまった。

「告白っつーのはシチュエーションも大事らしいぞ」
「シチュエーションですか」
「おう。先ずは二人きりになる。で、優しく抱き締めてやるんだ。場所は放課後の教室とかいいんじゃねえ?」
「あー…、すんません。優しくは無理だと思います」
「おいおい、頑張れよ」

それから暫く告白のシチュエーションについて話込んでいた。
夢中になりすぎていて、気付かなかった。



劇を終えた臨也が、俺の近くに居たことに。






















20101103


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -