(来神設定/女装あり)




「ねえねえ、明日誰と一緒に踊る?」
「明日の衣装何にするの?」
「明日、緊張するなー」
「明日って先生達も参加するんだよな」
「今、先輩に明日の誘いしてきちゃった!」

明日、明日、明日。校内は明日の話題で溢れかえっていた。
明日――つまり、10月31日は来神学園の一大イベント、仮装舞踏会が開催される日だ。
仮装舞踏会とは、生徒や教師が思い思いに仮装をして体育館に集まって談笑したり曲に合わせて踊ったりするもので、この日だけは生徒も教師も女子も男子も関係なしに羽目を外せる、と皆このイベントを楽しみにしていた。更に、このイベントを理由に憧れの先輩や意中の相手に近付けるということもあって、生徒達は今からそわそわと浮き足立っている。

俺も例外ではなかった。

「シーズちゃん、ねえ、君は明日一緒に踊る相手なんているのかなあ?」

上機嫌でシズちゃんに話しかける。
シズちゃんにそんな相手が居ないことは分かっていた。だってあのシズちゃんだよ?どこの物好きがこんな怪物を相手にするのさ?だからシズちゃんが寂しくないように、優しい俺はシズちゃんを誘ってあげるんだ!

「今日、下駄箱に明日一緒に踊って下さいって手紙が入ってたんだよなあ……」
「そうだよねえ、君を誘う人間なんて…………えっ!?」

俺は耳を疑った。
今、こいつ、何て言った?
手紙?は?嘘でしょ!?

「でも全然知らねえ奴だし……それに俺は……」
「っ、シズちゃんの尻軽!!変な女に引っ掛かって貢いで借金まみれになって死ね!」
「はあ!?何意味分からねえこと言ってんだ!手前が死ね!」

シズちゃんの声を背中に浴びながら、俺は教室を飛び出した。
仮装舞踏会に誘われただって?シズちゃんのくせに生意気だ……!

「……はあ」

廊下を歩きながら、段々と冷静さを取り戻す。途端に自分の子供らしい発言に自己嫌悪。溜め息だって自然と漏れてしまう。


(明日こそは、素直になろうと思ってたのにさ……)


他の生徒達が楽しげに明日の予定を立てているのが視界に入り、俺は更に気分を降下させた。





10月31日。仮装舞踏会当日。
仮装をした生徒と教師。オレンジと黒を貴重としたいかにもハロウィンらしい飾り付け。校内はわいわいと賑わっていた。

「いやあ、それにしても君も素晴らしい仮装をしたね。仮装……というか、女装、かな。性別まで偽るなんて流石だよ」

白衣を着て黒いマントを身に付けている風変わりな吸血鬼……の仮装をした新羅が、俺をまじまじと見て言った。

「女装か。まあ、否定はしないよ。この恰好なら皆ちやほやしてくれるし」

シズちゃんだけが楽しむなんて許せない。俺も思いっきり楽しんでやる。
そう思って俺が用意したのは魔女の衣装。丈の短い黒いワンピースに、ニーハイ。箒に、とんがり帽子。極めつけはロングの黒髪ウィッグ。

「そんな恰好して……変な奴等に絡まれても知らないからな」
「そんなこと言って、ドタチンはいざとなったら助けてくれるでしょ?」

ドタチンのお尻についているもふもふとした尻尾を触りながらにっこりと笑う。こんな優しい狼男、ドタチンくらいしか居ないよねえ。

「そういえば静雄は?」

体育館に向かう途中、新羅の口から一番聞きたくない名前が上がった。条件反射のようにぴくりと反応してしまう。

「知らない。シズちゃんはそこらの女子とちちくり合ってるんじゃない?」
「臨也、もしかして寂しいのかい?」
「……!そんな訳ないだろ!?新羅のばーか!行こ、ドタチン!」
「あっ、ちょっと待ってよ!臨也、京平!」

体育館は既に大勢の生徒と教師が集まっていた。薄暗い照明と、まるで本物の舞踏会のようなBGMがいい雰囲気を作っている。
ステージの上では何組かの男女が踊っていたりして。思わずシズちゃんの姿を探してしまう。

シズちゃんも今頃楽しんでるのかな……。

「……っ」

無意識の内に女々しいことを考えている自分に慌てて頭を振る。
俺も楽しんでやる。
……そう思ってたのに、何故か気分が乗らなかった。

「臨也?どうした?」

急に足を止めた俺に、ドタチンが優しく声を掛けてくれる。

「ううん、何でもない。ちょっと人が多すぎて人酔いしちゃったみたい。ここで休んでるから、ドタチンは新羅と楽しんできていいよ」
「でも……」
「何かあったら携帯に連絡するからさ」

ドタチンの背中を押しながら言うと、俺が一人になりたいということに気付いたんだろう。ドタチンはそれ以上は何も言わずに人混みに紛れていった。


体育館の隅でうずくまっていると、何人かの男子生徒に声をかけられたが全て聞こえないふり。

(俺、何してんだろ……)

うっすらと涙さえ浮かび始め、もう教室に戻ろう、そう思った時。
ぐいっ、と何者かに腕を引っ張られた。

「ちょっと!何……っ、」

ぱっ、と顔を上げるとそこには、包帯でぐるぐる巻きにされたミイラ男が立っていた。
包帯から覗くその瞳と、金髪の髪を見て、胸がきゅうっと締め付けられる。

「シ、ズちゃん……?……わっ!」

確かにシズちゃんだ。間違いない。
だけどシズちゃんは何も言わずに俺の手を引いてずんずんと歩く。ステージに向かって。

「離してよ……っ、俺はシズちゃんと踊る気ないんだから。君は見ず知らずの女子生徒の誘いに大人しく乗ってればいいでしょ」

本当は、シズちゃんが俺を見つけてくれて嬉しい。だけどこの口は悪態を吐くばかり。
ステージの上は相変わらず男女の生徒が楽しげに踊っていた。ステージに上がるなり、シズちゃんに手を握られる。
びく、と小さく身体が震えた。顔も熱い……。

「誘いは断ってきた」

今日初めて口を開いたシズちゃんは、はっきりと告げた。

「なん、で……?」
「手前と踊りたかったからだ、臨也」

ぎゅう、と抱き締められ、俺の頭は真っ白になった。急な展開についていけない。それにステージの上で踊りもせずにこんなことをしているせいか、何だか注目を浴びている気がする。

「俺は初めから手前を誘うつもりだったのによ……。こんな恰好して他の男誑かしやがって」
「たっ、誑かしてないよ!それに、」
「それに?」
「俺だってシズちゃん以外と踊る気なかったし……っ!」

ああ、もう、恥ずかしい!何でこんな人前で……!
直ぐ様羞恥心が襲い顔を真っ赤にさせている俺とは対照的に、シズちゃんは包帯の下で笑っている気がした。

「くそっ、臨也、手前……可愛すぎる!好きだ!」
「……っ!」

訂正。
シズちゃんも大分動揺しているみたいだった。






その年の仮装舞踏会が来神学園の伝説として語り継がれていることを、俺達は知る由もない。






























20101031

仮面舞踏会ならぬ仮装舞踏会!書いててすごく楽しかったです^///^学校公認のバカップル万歳!




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