(痴漢静雄×臨美※先天性女体化)






朝の通勤ラッシュほど辛いものはない。電車という狭い閉鎖空間の中でぎゅうぎゅう詰めにされ、人間観察の為に電車通学を選んだ少し前の自分に今は後悔している。
今朝も人に揉まれながらの通学。ドアの方まで押しやられ、扉に手を着いて下車駅のアナウンスはまだかとただただ耐えるのみ。

(人間は好きだけど、こればっかりはね……)

はあ、と溜め息を吐いた、その直後。
太ももに違和感を感じた。
偶然ぶつかっただけだろうと思い過ごせるような触り方じゃない。私は直ぐにピンと来た。

痴漢だ、と。

今まで暑く感じていた車内の筈なのに、痴漢の手が脚を這う度にぞわっと背筋に悪寒が走る。
気持ちわるい。
気持ちわるい。
気持ちわるい。
普段の私ならナイフで切ってやるところだけど、満員電車で身動きも出来なくてナイフが取り出せない。なら大声を出してやろう、と思ったんだけど――……

「……っ、」

恐怖と、痴漢をされていることを周囲に気付かれたくないという羞恥心で声が喉に張り付いて出ない。
自分の身は自分で守れると自負していた分、何も仕返してやれない非力さに情けなさを感じた。
その間にも、内腿を撫でていた痴漢の手の平は大胆になり、お尻にそれが触れた。
反射的に身体がびくっと跳ねる。

「……っ、ん…」

思わず声が漏れるが、電車の音に掻き消されていった。
お尻を無遠慮に触られる。触る、というか揉まれていると言った方が正しい。しかも力加減を知らないのかすごく痛い。
あろうことか、

「……ひっ、」

パンツの中にまで指が侵入してきた。
お尻の割れ目を擦られて、気持ち良くもないのに足がガクガクと震える。
多分、人差し指。ただの指の感触じゃない。指に何かを巻き付けているような、ざりざりと変な感触。例えるなら、絆創膏を貼っている指で頬を擦ったような感じに似ている。

(……絆創、膏)

一瞬、昨日のある会話が頭を過った。





「シーズちゃん。さっきの家庭科の時間、包丁で指切ったんだって?新羅に聞いたよー」
「手前には関係ねえだろ、うぜえ!」
「ふふっ、シズちゃんでもそんな怪我するんだね?あっ、絆創膏あげよっか?」
「いらねえ!しかも何だ、この柄!」
「え?リラックマだよ?可愛いでしょ?シズちゃんが付けたら似合わなすぎて笑えちゃうね……っと」
「あっ、おい!勝手に貼ってんじゃねえ!」
「意外と似合うじゃない。じゃあお大事にー」
「あっ、逃げんな!待ちやがれ!」





まさか、ね……。

昨日のことを思い出したのは一瞬のことで、直ぐに現実に引き戻される。
股の間を行き来している指が動かされ、時折下の毛が引っ張られた。絆創膏の付着部分が毛に絡まっているんだ。
不快感はちゃんとあるのに、生理現象で下半身が濡れてきた気がする。こんな痴漢に濡らされるなんて、ほんと、泣きたい。
それに気付いたらしい痴漢は、指の動きを速める。微かに聞こえるくちゅ、という水音に羞恥心が煽られる。
とにかく早く駅に着いて欲しい。もうこれ以上ここに居たくない。
うっすらと涙の膜が張ってきた頃、前触れも無しに指が離れていった。

(やっと終わっ……!……えっ、やだ、うそっ!)

指が離れてホッと安堵したのも束の間、ジーとチャックを降ろす音が聞こえ、ゴリッと何か硬いものがお尻に当たった。

うそっ、やだやだやだ!

ビクビクと脈打ち、火傷しそうな程の熱を持ったそれは、間違いなく男の人のそれだった。耳元で、ハァハァ、という興奮して荒くなった痴漢の呼吸が聞こえた。
サアッ、と血の気が引いていき、頭が真っ白になる。
私の意思など関係なしに、ぬるっ、とそれが股に擦り付けられた。

『次はー、池袋ー池袋です』

「……!」

その時、待ちに待った下車駅のアナウンスが流れた。
何事もなかったように降りよう。顔だけしっかり覚えて、社会的に抹殺してやる……!

そう覚悟を決めて、見たくもない痴漢の顔を拝める為に今まで下を見ていた顔を上げる。
扉のガラスに映った痴漢を見て、私は言葉を失った。

私の背後に居たのは、金髪の長身の男子高生。

「……シ、ズちゃ……?」

掠れてしまって最早 声に出たかどうかも分からない。
だけど痴漢――……シズちゃんの耳にはしっかり届いたようで、扉に手を付いていた私の手首を掴んで耳元で囁いた。



「明日、続きしてやるよ」



私を掴んでいるその指には、昨日私があげた絆創膏がしっかりと貼られていた。




























20101022
エロを期待された方、すみません!痴漢をするしずおが書きたかっただけなんです…!



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