※前編と繋がっています





俺は臨也と距離を置くようになった。幸いクラスは違うから、元々そんなに顔を合わせる機会は少ないのだ。
しかしそれで問題が解決したという訳ではなく、臨也を避けても現状は変わらなかった。遠くで臨也を見つければ目で追ってしまう。ふとした瞬間に、例えば授業中に、何の前触れもなく唇にあの感触が蘇る。
俺は本気でどうにかなってしまったらしい。あんな、ノミ蟲野郎をを気にかけるなんておかしい。俺は臨也が嫌いだ。嫌いなのに……。

「……雄、静雄、聞いてるのかい?」

「あ?ああ、新羅?何だよ?」

「何だよ、って次は移動教室だよ。また考え事かい?君がここまで頭を悩ませるなんて、まさに空前絶後。珍しいこともあるもんだね」

「うるせぇ、何でもねえよ」

移動教室と聞いて、俺はつかつかと教室を後にする。後ろから新羅と門田が溜め息混じりに俺を追いかけてくるのが分かった。そして門田が俺の肩を教科書で叩く。

「教科書忘れてるぞ」

「……悪い」

「本当、静雄らしくないね。らしくないと言えば臨也も最近……」

「あいつの名前を口にすんな」

自分でも驚く位、ぴしゃり、と。こんなにもあいつに敏感になっている。調子が狂う。

「静雄、まさかとは思うけど……」

新羅が言わんとしていることが手に取るように分かる。俺は拳を握り締め、首を横に振った。

「違う、……違う、……そんなんじゃねえ!」

半分は自分に言い聞かせた言葉だった。





昼休み。新羅は同居人に作って貰った弁当があるからということで、門田と二人で購買に向かっている途中だった。門田が神妙な顔付きで口を開いた。

「お前は臨也をどう思ってるんだ?」

「手前、だからその話は……」

ギロ、と門田を睨み付けるが、そんなことで動じないことは分かっている。そして門田は俺の怒りを悪戯に煽るようなことをしないということも。
門田は真剣に聞いてきているのだ。

「……どうって、前と変わらねえよ。むかつくし、殺してやりてえし、気に食わねえ」

それは変わらない事実だ。でもこうして口に出して言うと何だかしっくりとこない。

「じゃあ、臨也が他の奴のものになっても関係ねぇってことだな?」

「は?」

門田の意味深な言葉と笑み。
ごちゃごちゃとしていた頭が更に混乱して、折角買えたメロンパンの味も分からなかった。





ノミ蟲のことなんて知ったことか。
それで済ますことが出来たらどんなに良かっただろうか。
帰りのHRが終わっても、俺は帰宅することが出来なかった。門田が隣のクラス――臨也のクラスに行くところを見掛けたからだ。俺の頭に昼休みの門田の言葉が反芻する。
俺には関係がない筈なのに、気になって仕方ない。結局、俺は放課後の教室の前で盗み聞きをしようとしている。頭の片隅では、何をやっているんだ早く帰れ、と冷静な自分が文句を垂れている。しかし俺はその場から離れることが出来なかった。

「臨也、話がある」

「?そんなに改まってどうしたのさ、ドタチン」

恐らく、教室には門田と臨也の二人しか居ない。ドアが閉まっているから姿は見えないが、シン、とした教室に声が響き、お陰で二人の会話は全て俺の耳に入ってくる。

「悪い、ちょっとじっとしててくれ」

「え、ちょ、ドタチン……!?」

「すぐ終わるから」

「ん……っ」

もう、我慢ならなかった。底知れぬ怒りが沸き上がり、だけどその怒りの矛先が分からない。臨也に?門田に?それとも自分に?
冷静に判断するよりも先に、俺は教室のドアを勢いよく開けていた。

「門田、手前!臨也から離れろ!」

「……シ、シズちゃん?何でここに?」

ばち、と臨也と目が合った。途端に体温が上がる。

「静雄、何か勘違いしてるようだな」

「あ?」

門田が俺に近付き、ぽん、と肩に手を置く。
そして、俺の耳元で囁くように告げた。

(臨也には何もしてねぇから安心しろよ。制服についてた塵を取っただけだ)

と。

「な……っ、門田!」

そのまま教室を出て行こうとする門田の背に声を掛けたが、門田はひらひらと手を振るだけだった。

「何?状況が掴めないんだけど、どういうこと?何で俺はここに呼び出されたのかな?」

「……知らねぇよ」

久しぶりの会話。
やっぱり臨也を直視することは出来ない。
心臓がバクバクと高鳴り、顔に熱が集まる。

「でも、久しぶりだね。シズちゃん、俺のこと避けるんだもん」

「それは……!」

もう、俺は認めるしかないのかもしれない。
俺は、目の前の憎らしくて殺したい程嫌いな男を、


「……好き、だ」

「え?何が?」

「……っ、手前が好きだって言ってんだよ!手前が頭から離れなくて、調子狂うし、直視出来ねぇし、メロンパンは美味くねぇし、他の奴と二人きりで居るところなんか見たくねぇし……!くそ!ああ!もう、好きなんだよ!!文句あるか!!」

やっぱり臨也を真っ直ぐと見ることは出来なくて、でもこの想いを伝えたくて、思いきり臨也を抱き締めた。

「シズちゃんが……俺を好き?」

「……そう言ってんだろうが」

「嘘だろ……」

「嘘でこんな気持ち悪ィこと言えるか」

「夢見たい」

腕の中の臨也が小さく呟いた。
顔を上げて俺を見つめる臨也は、そのまま続けた。

「俺も、シズちゃんが好きだよ」

至近距離で見た臨也は、何つーか、ヤバかった。
頬が桃色に染まり、瞳が潤んで、俺の制服を軽く掴む仕草。そして、唇が、俺を誘う。

「臨也……」

「ん、」

俺は誘われるがままに、自分のそれを臨也の唇を重ねた。
ふに、とした唇はあの事故の時と変わらずマシュマロみたいに柔らかい。気持ちが良くて、その日は何度も何度もキスをした。













「どうやら、もう僕らの出番はなさそうだね。お疲れさま、京平」

「ったく、あいつら焦れってぇんだよ」

「でももう静雄と臨也の喧嘩見られないのかと思うと、ちょっと残念だよね。狂瀾怒濤のような彼等の喧嘩は見ていてなかなか楽しかったのに」

「新羅。やっぱりお前趣味悪いな……」


















20100402
とりあえずいい奴っぽい新羅とドタチンが書けて満足です。あー来神組楽しい!というか、アレですね、静雄のどうていっぷりが伺えますね。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -