(※静雄視点)




二学期が始まって直ぐに、学校は文化祭モードに包まれた。
黒板には、「コスプレ喫茶」「シンデレラ」「お化け屋敷」「焼きそば」の文字。文化祭での出し物の案だ。この4つの中から多数決で決めるらしい。
わいわいと教室が賑わう。正直俺はどれでも良かったが、一番妥当で繁盛しそうな焼きそばに手を挙げておいた。

しかし公平な多数決の結果、俺のクラスの出し物は――……シンデレラに決まった。
周りのクラスメートが言うには、舞台発表は当日の演舞時間以外は暇だから、だそうだ。
そしてまたもや公平なくじ引きの結果、配役は――……





「あは、あははっ!まっさかドタチンが王子様役とはね!」

六限目のホームルームが終わり、放課後の教室には臨也の笑い声が響いていた。
そして門田は珍しく不機嫌そうに机に頬杖をついている。
そんな門田の周りにはいつものメンバー。俺と新羅と臨也。

「何で俺が……」
「しかも京平以外は皆大道具。京平なんか一番大道具似合いそうなのにね」
「いや、ドタチンは紳士だからねえ。意外と適役なんじゃない?」
「……俺、演技とか出来ねえぞ」

はあ、と溜め息を吐く門田には同情するが、俺が役に当たらなくて良かったと心底思う。

「あ、じゃあ俺がドタチンの練習に付き合おうか?お姫様役やってあげるよ」
「……は?」

門田より先に臨也の言葉に反応したのは俺だった。
臨也が、お姫様役?いくら練習と言っても……。
いや、別に俺が気にすることじゃねえだろ!俺の頭は本当におかしくなっちまってる。

「何でシズちゃんが反応するのさ。ドタチン、練習相手必要じゃない?」
「まあ、そうだな……」
「その代わり、ドタチンのお弁当が食べたいなー」
「全く……それが目当てか」
「えへへ」
「デレてる臨也きもい」
「新羅の方がきもい」

そんな三人のやり取りを聞きながら、俺は胸の内にモヤモヤとしたものが広がっていくのを感じた。このモヤモヤの感情は前も感じたものだ。

(……嫉妬、なのか?認めたくねえけど……)

新羅と臨也の罵り合いはいつものように聞き流すが、門田と臨也のやり取りに胸がちくりと痛んだのは無視出来なかった。





文化祭一週間前。
放課後は準備に費やし、今日も例外なく学校に残っている。
「赤のペンキはどこだ?」「段ボールもっと持ってこい!」「ガムテープ足りないよ!」
そんな台詞が自分のクラスからも隣のクラスからも飛び交う。

「おい、あのノミ蟲はまたサボりか?」

騒がしい教室内に臨也の姿が見当たらなかった。アイツも大道具の係のくせして、全然手伝いやしねえ。そろそろ引っ張り出して無理矢理手伝わせようかと思い、新羅に臨也の居場所を聞いてみた。

「臨也?ああ、多分京平と一緒に居るんじゃないかな。ダンスの練習がどうとか言って中庭に行ったけど」
「ダンス?」
「ほら、シンデレラの中で舞踏会のシーンがあるだろう?その練習らしいよ。シンデレラなんて子供のお遊戯だと思っていたけど、セルティと共に舞踏会に行く妄想をするとそれも悪くないよね!ああ!セルティ!」

ごちゃごちゃと独り言を始めた新羅を放置し、俺は教室を抜け出した。
俺はサボりじゃねえ。臨也を係の仕事に連れ戻すだけ。ただそれだけだ。それ以外の理由はねえ。



「ドタチン、上達したじゃないか。これなら本番でシンデレラ役の子の足を踏まなくてすむね」
「ああ、お陰様でな」

聞き覚えのありすぎる声が二つ。中庭には新羅が教えてくれた通り、臨也と門田が居た。
踊りの練習は終わったのか、中庭に設置されているベンチに腰掛けてのんびりと話している様子だ。
さっさと話し掛ければいいのに、俺はというと物陰に隠れて二人の会話に耳をすませていた。
話し掛けるタイミングを図るなんて、俺らしくねえ。
そう思いつつも、何故だか出ていくことが出来なかった。
俺がもたついている間にも二人の会話は進む。

「そういや、臨也は大道具の係だろ。あっち、手伝わなくていいのか」
「いいのいいの。あっちは人手足りてるだろうし。それに……」
「それに?」
「シズちゃんと同じ係になんてなりたくなかったから。放課後も一緒に居なきゃいけないなんて勘弁して欲しいよ。本当、シズちゃんなんて死ねばいいのに……」




その後、門田がどう応えたのかは知らない。臨也のあの台詞を聞いて直ぐに俺は踵を返した。
教室に帰って、新羅に「あれ、臨也は居なかったのかい?」と聞かれたけど、俺は緩く首を振るので精一杯。
「死ねばいい」なんて今まで数え切れねえほど言われたし、言ってきた。なのに何でこんなにも胸が苦しいのか。

分かってる。胸の痛みの理由も、……自分が臨也のことをどう思っているのかも。もう目を背けることは不可能だった。


うっすらと気付いていた感情は、確信へと変わっていった。






























20101013
やっと静雄が自分の気持ちを認めてくれたので話が動きます。前回から時間の軸がかなり経ってますが、そこは目を瞑って頂けると嬉しいです…!文化祭、萌え^^



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