(学パロで、先輩トムさん×後輩臨也)











一年生の折原臨也と言えば、全校生徒がその名を知ってると言っても過言ではないくらい有名人だった。
まだ一年生の二学期に入ったばかりだと言うのに、いい噂も聞けば悪い噂も度々流れた。
俺にとっては別の世界の人間かと思っていたそいつ。
そいつが今、俺の目の前で頬を染めながらもじもじとしている。

「あー…、悪い。今何て?」

聴覚がおかしくなったのかもしれない。だってあり得ねえだろ。

「……だから、田中先輩が好きなんだよ……です」

目線をさ迷わせておかしな敬語を使う折原臨也は噂で聞く人物とはあまりにも違い過ぎた。
何かの罠かと思った。折原と静雄が犬猿の仲なのは知っていたし、もしかしたら俺を利用して静雄を殺そうとしているのかもしれない。
折原が本気なのかどうなのかは知らないが、ここは適当にスルーするのが一番だろう。

「……あのよ、」

悪いけど気持ちには応えられない、そう言おうとしたんだけど。
折原の不安と期待が入り交じった瞳と目が合った瞬間、息が詰まって言葉が出て来なかった。

「……ごめんなさい、迷惑ですよね……、こんなの。俺、男だし、喋ったのだって今日が初めてだし……。あの、忘れて、ください」

黙ったまま突っ立っている俺を見て、折原は俺に断られると思ったんだろう。切なげに笑うとくるりと背を向けた。

「あっ、おい!」

無意識だった。
俺は折原の細い手首を掴み、引き留めていた。

「先輩……」
「俺、お前のことよく知らないけどさ、これから知っていけばいいよな」
「えっ?」

えっ?
と思ったのは俺も同じだ。
俺、何言ってんだ!
静雄の喧嘩には巻き込まれないように遠巻きに見守るようなタイプで、折原のことも触らぬ神に祟りなし、とか思ってた。
でも、もう後戻りは出来ない。
それにこいつのことがもっと知りたい。

「俺と付き合ってみっか?」


それを聞いた折原は、無邪気に笑みを浮かべた。







「田中先輩!」
「おー、こっちこっち」
「遅くなってごめんねえ。九十九屋の授業、終わるの遅いんだよ。お腹空いたでしょ?はい、お弁当」
「さんきゅ。毎日悪いな」
「ついでだもん」

付き合い初めて一週間。毎日折原は弁当を作ってきてくれる。昼休みにこうして二人で過ごすのが日課だ。

付き合って分かったこと。
弁当には卵焼きが必ず入っている。妹達の弁当も作っているようで、卵焼きは妹達の好物だから毎日作らされているんだとか。でも卵焼き以外のおかずを作るのは苦手みたいで、唐揚げが粉っぽかったりした。
それでも一生懸命作ってきてくれてるのが伝わってくる。

「折原は……」
「あっ、折原って言った!」
「あー、まだ慣れねえんだわ、臨也って呼ぶの」

付き合って分かったこと。
俺は臨也にとって初めての恋人らしい。恋人に名前で呼ばれるのが夢だった、とか女みたいなことを言っていた。それを聞いた俺は柄にもなく可愛いな、なんてときめいていたりして。

「そういや、お前は俺のこと名前で呼んでくれねえんか」
「ちょっ……、と、それは、予想外、かな。考えたことなかったよ」

俺の弁当箱より一回り小さい弁当をつついていた臨也の箸が止まった。顔を覗き込むと、臨也はパッと目を反らしてふるふると首を振った。

「無理無理!先輩を名前呼びとか無理!」
「でも俺だけ名前で呼ぶのも何だかなあ……」
「田中先輩は田中先輩だもん」
「俺も臨也に名前で呼ばれたいって言ったら?」
「……、先輩、それズルい」

付き合って分かったこと。
臨也は拗ねると三角座りをしてツン、と唇を尖らせる。まるで子供のようなその態度は、何だか可愛らしいとさえ思う。俺も既に末期か。

「ほれ、言ってみ?」

柔らかくてサラサラとした黒髪を撫でて促すと、臨也は小さく呟いた。

「……ト、……トム、さん……先輩」
「ぶはっ」
「ちょっと、笑わないでよ!俺は真剣なんですけど!」
「だって、おまっ、トムさん先輩って!」

予想外の呼び名に思わず噴き出してしまった。臨也は俺に笑われて顔を真っ赤にしていた。

「先輩のばか!」
「あー、はいはい、悪かったよ」

付き合って分かったこと。
俺が臨也を抱き締めると、臨也は俺の腕の中で瞼を閉じる。安心するらしい。すりすりと胸元に額を擦り付けるのも癖みたいだ。
付き合って分かったこと。
キスをする時、身体を小さく震わせて目をきつく閉じているということ。唇は柔らかくて何だか甘い。そして唇が離れると、

「……先輩、好き」

と必ず言ってくれる。
折原臨也という人間を知っていく度に、俺は臨也を好きになっていった。

「俺も好きだよ、臨也……」



もっともっと、知らなかったことを知っていきたい。
今日、俺の家に来ないか、なんて誘ったら臨也はどんな反応をするのだろう。
知りたい。知りたい。臨也の色んな表情を、色んな仕草を、色んな声を、知りたい。


「なあ、臨也。今日――…………」































20101006
トムさんの日!ということで突発的トム臨!トムさんのキャラがいまいち掴めずに書いたので誰だこいつら、みたいになってしまいました。でも書いてて楽しかったです!



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