※来神時代






「いーざーやぁあああ!!!」

「ははっ!シズちゃぁん、メロンパンくらいでそんなに怒れるなんて、君どれだけメロンパンに執着あるの?」

「俺はなぁ、手前にメロンパンを奪われたのが気に入らねぇんだよ!っつか手前割り込みしやがったろ!許さねぇ!」

「あー怖い怖い」

俺が臨也を追いかけて、臨也が俺から逃げる。
いつもの光景。日常。
今日も購買のロイヤルジャンボメロンパンを臨也に奪われ、俺は怒りを露に臨也を追う。

「待ちやがれ!ノミ蟲!」

「やーだよ。待ったらシズちゃん殴るでしょ?」

「ったりめーだ!」

臨也は階段の踊り場で、俺を煽るようにひらひらとメロンパンが入った袋を揺らす。
くそ、むかつく!

俺は一気に階段を駆け上がり、臨也を捕まえようとした。
――その時だった。
天地がひっくり返ると比喩で使われるけど、まさにその通り。俺は階段を踏み外し、そのまま天地がひっくり返る。ああ階段から落ちたんだ、と気付いた。そして、臨也も一緒に落ちているということにも。俺は落ちる瞬間に臨也の制服を掴んでいたのだ。背中に衝撃を受けたと思ったら、臨也が俺の上に落ちてきた。
痛みを感じるよりも先に感じたのは、唇に触れる柔らかな感触。目の前には黒髪が揺れ、紅い瞳が瞳孔を開いている。
もしかしなくても、これは。

「……っ」

「!!!!」

俺は頭が真っ白になった。
よりによってファーストキスが男と、しかもあのノミ蟲が相手!?
最悪だ!最悪だ!最悪だ!殺す!殺す!殺す!





まるで漫画のようなとんでもないアクシデントの後、水道で口を濯いで制服の袖で何度も唇を擦った。なのに、臨也の表情と唇に残った柔らかな感触は消えない。
舌打ちを繰り返しながら廊下を歩いていると、見知った顔が近付いてきた。新羅と門田だ。

「静雄!聞いたよ、臨也とキスしたんだって?凄い噂になってるよ。ああ、でもずるいなあ。僕だってセルティとキスしたことないのに!あ、まあセルティとは一生キス出来ないかもしれないけど、僕はそんなの気にしないね。だって僕はセルティを愛してててててて痛い痛い静雄!なんで耳をつねるんだい!?」

「……うぜぇ」

そう吐き捨ててから手を離してやる。新羅は痛みに涙目になりながら耳を擦っていた。

「でもお前らが噂になってるのは本当みたいだぞ」

静かに門田が口を開く。それに付け加えるように、新羅が耳を擦りながら言葉を続けた。

「しかも、本当は君等が付き合ってて、廊下で熱烈なキスをしてたっていう尾ひれつきでね」

「……その噂流した奴殺す」

「まあまあ。噂なんて独り歩きするものさ」

「その噂をすればなんとやら、だな」

くい、と門田が顎で示した先には、臨也の姿。その姿を見た瞬間、身体の中の何かがぐわっと熱くなった。

「……シズちゃん。それに新羅も、ドタチンも」

「やあ、臨也。丁度今君の話をしていたんだよ」

「聞こえたよ。昼休みの……キスのことでしょ。あれはね、事故なの。事故。俺だってショックなんだからね?シズちゃんとキスなんかしたくなかったよ。だから今回のはお互い様ってことで」

ああ、やっぱりこの沸き上がる感情は怒りだ。ふつふつとはらわたが煮え返る。

「手前、臨也……やっぱり殺す!」

手近にあった掃除用具入れに手を掛ける。視界の端で、新羅と門田が後ろに下がるのが分かった。この二人は他のどんな奴らよりも俺達の喧嘩に慣れている。

「シズちゃんってばまた学校のもの壊す気?」緩やかに弧を描きながら笑みを浮かべる臨也は、憎らしい。憎らしい、のに。なのに、その形のいい赤い唇に目を奪われる。マシュマロのような感触が、自らの唇に蘇った。
掃除用具入れが持ち上がらない。
力が入らない。
顔に熱が集まる。
おかしい。おかしい。おかしい。

俺の異変に気付いたのは臨也も同じだった。不思議そうに首を傾げ、警戒しながらも俺との距離を縮める。

「シズちゃん?どうかしたの、何か変だよ。いつも以上に変。熱でもあるんじゃないの」

目の前に臨也の顔。フラッシュバック。臨也を直視出来なかった。

「うるせぇ、消えろ」

何とか振り絞った声はいつも通りに言えただろうか。
俺は臨也に背を向け、早足で教室に戻った。

「面白くなってきたね、京平」

「……新羅、お前も相当趣味悪いな」

二人の友人の会話は、俺の耳に届くことはなかった。

















20100401
まさかの前後編です。来神組楽しい!もうなんというか、タイトルのまんまですね。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -