(川遊び前編の続きです)
「シズちゃん、早く!早く!」
俺の数歩先を行く臨也が、首だけ俺の方に向けながら手招きをする。
「んな焦らなくても川は逃げねぇよ」
と言いつつ、俺も胸が弾んでいた。こんな開放的に遊ぶのは久しぶりだ。
「わっ、冷たい!気持ちいいー」
既に川に足を入れた臨也がぱしゃぱしゃと浅瀬の川を歩いて無邪気に笑った。
臨也が動く度に跳ねる滴が、太陽の光を反射してきらきらと光っている。
ぼう、と臨也を見つめていると、ばしゃっと真っ正面から水がかかってきた。
「手前……、臨也!」
「だってシズちゃんぼーっとしてたからさあ。目、覚めた?」
「このやろう!」
「シズちゃんが怒ったー!」
ばっしゃばしゃと派手な水音を立てて俺も川に足を入れる。冷たい川の水が心地良かったが、今はそんなこと言っている場合じゃない。
逃げる体勢に入った臨也に、水を思い切りかけた。
「んぶっ」
「はっ、どうだ、気持ちいいだろ?」
頭から水を被ったのと同然な臨也は、髪の先からぽたぽたと滴を垂らしている。Tシャツも半ズボンもびしょ濡れだ。
「あー、もう、びしょびしょ……シズちゃんのばか!」
「手前が最初にやったんだろうが。ほら、頭拭いてやっから」
「んー」
首から下げていた長めのタオルを臨也の頭に被せ、がしがしと拭いてやる。
自分で水をかけておきながら頭を拭いてやるなんて何となくおかしい気もするが、俺のせいで風邪なんか引かれたら嫌だしな。
シャツは……まあ、後で絞れば乾くだろ。
そう思って臨也のシャツに目をやったのが間違いだった。
「……っ」
「シズちゃん?どうしたの?」
「いや、何でも、ねぇ」
ぐりん、と勢いよく臨也から視線を反らす。
やべぇやべぇやべぇ。何か、エロい。シャンプーの香りも、水を浴びたせいで肌に張り付いたシャツも、透けて見える身体も。そして、濡れた唇も。
「? シズちゃん変なのー」
「俺のことはいいから門田と新羅も呼んで来いよ……!」
俺がそう言うと、臨也は何故か拗ねたような表情を見せた。
と思ったら、突然俺の身体をドンっと押して…………、…押して……?は!?
ばっしゃぁあん、と水飛沫が上がる。
気付いたら全身びしょ濡れで、川の中に浸かっていた。
「俺はシズちゃんと遊びたいの」
ああ、くそ、かわいいこと言いやがって……!
臨也は川の中なのにも関わらず膝立ちし、ぎゅう、と俺に抱き着いてきた。その上、濡れた俺の胸元に擦り寄るものだから折角拭いてやった髪も台無しだ。
「ったく二人してびしょびしょじゃねぇか」
「あははっ、パンツまで濡れちゃった」
こんなに濡れる予定じゃなかったから着替えなんて用意していない。それなのに怒る気力がなくなったのは、臨也が楽しげに笑うからだ。
「二人共、川遊びというか水浴びだね」
「……着替え持ってきて良かったぜ」
そこに呆れた顔をした新羅と門田が現れた。
「わあ、着替えとかドタチン用意周到だね。さっすがー!」
「どうせこんなことだろうと思ったからな」
「全く、はしゃぎ過ぎだよ。臨也はともかく静雄まで」
「えー?涼しいのにー。あ、でもさ、俺達だけ涼しくなるのも悪い気がしない?ね、シズちゃん」
意地悪く笑う臨也の意図を読み取り、俺もにやりと口角を上げた。
「ああ、そうだな。手前らも……、」
「えっちょ、待っ、僕は遠慮するよ……!」
「流石に4人分の着替えはねえぞ!?」
俺と臨也の考えていることを敏感に感じ取って焦り始めた門田と新羅の腕を掴み――
「……涼しくしてやんよ!!」
ぐい、と思い切り前に引っ張った。
当然ながら、バランスを崩した二人は俺の時と同様に派手に水飛沫を上げた。
◆
楽しい時間は直ぐ過ぎると言うけれど、本当にあっという間に日が落ちてしまった。
手足がふやける程 川遊びをし、服を乾かしながら釣りをして、夕飯はカレー、その後は川で冷やしておいた西瓜を食った。
楽しかったのは本当だ。……だけど、昼間 意識していた臨也とのキスのチャンスはおろか、二人きりになれるチャンスも数えるくらいしかなかった。
きっと夜だって、テントで横になったら一日の疲れが襲ってきて直ぐに眠りについてしまうだろう。
――と思ったが、今のこの状況は何だ。
テントに入り横になったまでは良かった。門田も新羅も直ぐに寝息を立て始めた。今起きているのは俺と……臨也だけ。
「シズちゃん、今日は楽しかったね」
「……ああ、そうだな」
門田達を起こさないように小声で話す臨也に合わせて俺も小さく頷いた。
狭いテントの中で密着するように隣で寝転がり、妙に緊張してしまう。
「シズちゃん、外出てみようよ」
「外?」
「ちょっとだけ」
ね?と小首を傾げて笑う臨也が可愛くて、断る理由がなかった。
テントから出ると、満天の星が一気に視界を埋めた。
「わっ、すごい星……」
臨也も夜空を見上げて、ほう、と息を吐く。
静かな夜の空気に溶け込んだ臨也の声に、ドキ、と胸が高鳴る。人気がない場所、明かりは月明かりと星明かりだけ。
意識しない方がおかしい。
静まれ、静まれ、と自分の心臓を叱咤しながら、臨也の隣を歩く。
「ねえ、シズちゃん」
「何だ?」
「変なこと聞いていい?」
「だから何だよ?言ってみろ」
微かに見えた不安げな臨也の表情。胸がざわついた。何か重大な話――例えば別れ話のような、そんな話になるのかと身構えた俺の予想は見事に打ち破られた。
「俺って、魅力ない……?」
「はあ?」
予想とかけ離れた言葉を聞いて、俺の口からは間抜けな声が飛び出した。
「だってシズちゃん、全然手出してこないじゃん!不安になるだろ……っ」
「なっ、何、言ってんだよ!」
心臓が痛いほど愛しくて、今だってめちゃくちゃ意識して、緊張してるっつーのに……!
「俺達、恋人同士じゃないの?ちゅーだって、セックスだって……、俺はしたい、よ」
「……っ」
臨也を不安にさせた。俺の言葉と行動が足りなかったせいだ。
「シズちゃ……、…っ」
とにかく、一秒でも早く臨也の不安を取り除いてやりたくて。
俺は臨也の唇に俺のそれを押し当てた。
臨也の肩がぴくりと震えるのが分かった。テクニックも何もない、拙い触れるだけのキス。それでも、唇を離した時に見えた臨也の表情は柔らかかった。
「臨也、俺だって手前が好きだ。好き過ぎて、どうしたらいいか分かんなくなってた……、不安にさせて悪かったな」
「シズちゃん……、ばかっ、シズちゃんの、ばか!もっと早く言ってよ!」
「だから悪いっつったろ?それに……」
ぎゅうぎゅうと俺に抱き着いてきた臨也の腰を抱き、優しく頭を撫でてやる。
「それに?」
「それに、これから嫌と言うほど分からせてやるよ、俺の気持ち」
月明かりの下 臨也の頬が微かに赤らんでいるのを確認して、とりあえずもう一度顔を近付けて唇を重ねることにした。
20100714
サマバケぇぇぇぇ!!!もうこいつらずっと青春してろよ!と思いながら書いてました^^文だときらきらした感じがあまり伝わらない……!精進!