(来神時代)




きらきら。川が流れる音。さわさわ。木々が揺れる音。じわじわ。蝉の声。

夏休みに入って早一週間。今日は川遊びがしたいという臨也のリクエストに応え、いつもの4人で川に来ていた。

「やっぱり空気が綺麗だね」

すう、と胸いっぱいに酸素を吸い込む臨也。制服とは違う、白く細い腕と脚を晒した恰好に、俺は朝から落ち着かない。

「シズちゃん、何してんの?早く遊ぼうよ」

くいくい、と服を引っ張られ、臨也が無邪気な笑みを浮かべてきた。
あー……、くそ、可愛い……!
臨也の笑みにほだされながら川に向かったが、数歩も歩かない内に後ろから門田に肩を掴まれた。

「おい、お前ら!遊ぶよりまずテントを張るのを手伝え!」

そう、今日は川遊びを兼ねた泊まり掛けのキャンプなのだ。
門田に叱られ、臨也は拗ねたように唇を尖らせる。

「えー?そんなの新羅に頼めばいいじゃない。ドタチンも遊ぼ?」

「ちょっと臨也!僕にだけ仕事を押し付けるなんて酷いよ!」

「そうだぞ、臨也。やることやったら沢山遊ぼうな」

まるで父親のような顔をしながら門田は臨也の頭を撫でた。
門田が臨也を可愛がってることは知ってるが、やっぱり俺以外の男が臨也に触っているとモヤモヤしてしまう。

「……だってさ、シズちゃん。シズちゃんも頑張るなら俺も頑張る」

ぎゅう、と俺に抱き着きながら告げる臨也。
さっきのモヤモヤも、臨也の言動一つで飛んで行った。





話し合いをするまでもなく、テントを張るのは俺と門田。昼飯や夕飯の下準備は臨也と新羅が担当することになった。
少し離れた場所で臨也が包丁でにんじんを切っているのが見える。慣れない包丁を持っている臨也は危なっかしくて、見ているこっちがハラハラしてしまう。

「ははっ」

臨也を見守っていると、突然門田が笑った。

「?何だよ?」

「ああ、いや、お前がそんな目で臨也を見る日が来るなんてな」

「は?そんな目?」

「自分で気付いてねぇのか」

門田の言っている意味が分からず、首を傾げる。
すると門田は呆れたように笑みを浮かべながら言った。

「臨也が可愛くて仕方ないって顔してるぞ」

「なっ……!?」

勿論俺と臨也が付き合っていることは門田も新羅も知っている。
でも自分の気持ちが周りに分かるくらいだだ漏れていたなんて、恥ずかしいにも程がある。

「まあ、隠すことはねぇよ。新羅は面白がってるけど、お前らを応援してるし。勿論、俺もな」

「門田……」

「ほら、臨也と遊びてぇならさっさと片付けるぞ」

「……おう」

強すぎる太陽のせいか、それとも別の理由か、顔が熱くなっているのを感じながら作業を続けた。



陽が頭の真上に昇った頃、臨也がこちらに駆け寄って来た。

「シズちゃん、ドタチーン!お昼にしよ?」

どうやら昼食の用意が出来たらしい。

「ああ」

「ふふ、シズちゃん汗だくだよ?」

臨也は俺が首に掛けていたタオルを奪い、それで俺の汗を拭い始めた。
驚いて臨也の方を見ると、臨也も汗をかいているのか、汗で髪が張り付いた首筋がまず目に入った。そして視線を下げると服の中が見えそうで……、あー!くそ!

「……っ、じ、自分で出来る……!」

「シズちゃんってほんと照れ屋さんだよねぇ。俺達付き合ってるんだから気にしなくていいのに」

「っるせ……」

前を歩く臨也のうなじを極力視界に入れないようにしながら、先に行った門田と新羅の元に向かった。

「やっぱりキャンプといえばバーベキューでしょう!因みに夜はカレーなんだけどね。カレーと言えばこないだセルティがカレーを作ってくれたんだけど、それがまた美味いの何のって……」

「野菜から焼くぞー」

「わーい!あ、ドタチン、俺ピーマンいらない!」

「俺もピーマンいらねぇ」

「こら。臨也も静雄も好き嫌いしねぇでちゃんと食え」

「えー」

「えー、じゃない」

「ちょっと皆!僕の話聞いてる?聞いてないよね?」

「新羅うるさい黙れ☆」

「ああ!セルティ!早く帰って君の優しさに触れたいよ!」

学校の休み時間と変わらないやり取り。でも川のせせらぎや時折吹く爽やかな風がいつもと少し違った雰囲気を作っていた。

「肉 焼けたぞ」

「ありがとう、ドタチン」

「さんきゅ」

ここでも父親(いや、母親か?)っぷりを発揮する門田に焼いて貰った肉を黙々と咀嚼する。
ふと、隣に視線をやると、肉をちびちび食べていた臨也の口の端にバーベキュー用のタレがついていた。
子供みてぇで可愛いじゃねぇか……!

ドクドクと心臓はけたたましく鳴り響くが、半ば無意識に手を伸ばす。

「臨也、口 タレ付いてるぞ」

「え?ん、ありがと、シズちゃん」

何てことのない一連の動作と会話。
でも俺は頭が真っ白になるくらいパニックになっていた。

触れたのだ。
臨也の唇に。
俺の指が。

ふにっ、とマシュマロを触ったような感触だった。柔らかくて、蕩けそうで。臨也の唇に触れた指で、自分の唇をそっと撫でてみた。指に心臓があるみたいに脈打っている。沸騰しそうな程、暑い。熱い。

キスはしたことがなかった。勿論、臨也とも。臨也とそういうことをしたい、そう考えたことがないと言ったら嘘になる。ただ、タイミングが掴めずにいた。
でももしかしたら今日、チャンスがあるかもしれない。
もしその時は、俺は、臨也と――…

「シズちゃん?どうかした?」

「!」

「シズちゃーん?」

「なななな、何でもねぇよ!」

「そう?変なの」

小首を傾げながらとうもろこしに口をつける臨也。


俺は、その唇から目が離せないでいた。





























20100703
まさかの、前後編です。だってまだ川遊びしてない!ばくしょう!



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