(※臨也視点)
ハンドボール投げはグラウンドのフェンスを飛び越えていき、握力は測定不可能。立ち幅跳びやシャトルラン、反復横飛びは平均値(それでも俺よりは記録が良かった)。シズちゃんの体力に勝つことはないと思ったけど、50メートル走と長座体前屈は俺の記録の方が良かった。
そんなくだらないスポーツテストも終わり、今日からテスト一週間前となった。
「新羅ー、何してんのさ?早く帰ろうよ」
いつもは、「ああ!セルティ!君に早く会いたい!今から帰るよ!」とか言いながら真っ先に教室を出る新羅が、鞄も持たずにシズちゃんの席に留まっている。そこにはドタチンの姿もあった。
「ああ。静雄がね、テストのヤマを教えて欲しいって言うものだから」
「テストのヤマ?へえ、シズちゃんって意外と真面目なんだね」
「……っるせぇよ、ノミ蟲!」
「まあ、そういう訳で今日は静雄の勉強を見てやろうと思ってるんだが」
「ドタチンまでシズちゃんのお世話するの?」
「臨也は先に帰っててもいいんだよ?」
新羅が気を遣って促してくれたけど、俺はこのまま素直に帰る気にはならなかった。
シズちゃんが俺を頼ることはないと分かってるけど、それでも少し新羅とドタチンが羨ましい。
「俺もシズちゃんの勉強見てあげるよ」
親切のつもり。ただの自己満足。シズちゃんに頼られたら気分がいいんだろうな、とそう思った。
「は!?俺は手前に借りを作るつもりはねぇ!」
「でも臨也は僕らより成績いいしねぇ」
「テストのヤマ張るのも上手いしな」
「まぁね、教師の観察してればそんなもの手に取るように分かるよ。それに別にシズちゃんに貸しを作ってどうこうしようなんて思ってないしね。まあ、シズちゃんが今回のテストで追試になって、夏休み中も学校に来る羽目になりたいって言うんなら俺は君を放っておくけど」
にこ、と笑みを浮かべながら言うと、シズちゃんはぐっと息を詰めた。
「じゃあ、図書室にでも行こうか」
シズちゃんが俺に反論出来ないことを悟った新羅の言葉に、シズちゃんは渋々席を立ち上がり、俺達は教科書やノートを持って図書室に向かった。
◆
カリカリとシャーペンがノートの上を走る音。
時折くしゃりと髪を掻き混ぜながら唸るシズちゃんを、俺は頬杖をつきながら見守っていた。
ドタチンも新羅も自分の勉強をし始め、シズちゃんはそんな二人の邪魔をしたくないのか分からない問題は俺に聞いてきた。
問題集とにらめっこをしているシズちゃんをじっと見詰める。
少し傷んだ金髪は、シズちゃんが消しゴムを使ったり問題集のページを捲る度にさらりと揺れた。キラキラと光るそれに思わず目が行ってしまう。シャーペンを持つ指はすらっとしていて綺麗だ。あの指で、腕で、いつだったか抱き締められたことを思い出した。
「……や、臨也!手前、聞いてんのか!」
シズちゃんの声にハッと我に返る。
俺、シズちゃんを観察したりして……何してんだろ。
「え?あ、何?」
「何呆けてんだ?」
「別に何もないよ。で、何?どこが分からないの?」
「ん、ああ、ここなんだけどな……」
やけに声が近い、と思って視線を上げると、予想以上に至近距離にシズちゃんの顔があった。
(…………!!)
途端に、どくん、と心臓が跳ねる。
近い近い近い近い!
っていうか何で俺は意識しちゃってるの!?意味分からない!意味分からない!顔は熱いし、心臓は壊れたみたいにうるさいし……!
今の俺の心情を感付かれたら絶対おかしなことになる。
そう思って平静を装おうとしたけど……遅かった。
バチ、
と音がしそうな程シズちゃんと目が合う。
「!」
「な、何見てんだよ!ノミ蟲!」
「別にシズちゃんなんか見てないから!自意識過剰なんじゃない!?」
「静雄、臨也」
騒ぎ始めた俺達を、ドタチンが図書室なんだから静かにしろと注意する。
シズちゃんはぶつぶつと文句を言いながらも問題集に向き直り、再びシャーペンを走らせていた。
一方、俺の頭の中では先ほどのシーンがエンドレスリピートされている。
目が合った瞬間、シズちゃんの顔が赤くなった気がする、とか……自意識過剰なのは俺の方じゃないか!
20100702
乙女な臨也!