清々しい青空の下。俺は公園のベンチで項垂れていた。
もう1ヶ月以上悩み続け、未だに答えが出ない。

(誕生日プレゼント、どうすっかなあ……)

今日は5月3日。
臨也の誕生日を目前に控えた今、俺は悶々とただひたすら明日をどう過ごすか、何をプレゼントしようかと悩んでいる。
付き合ってから初めて迎える臨也の誕生日。やはり特別なものにしたい。でもそう思えば思うほど、プレッシャーがのし掛かり、俺を悩ませる。
貧乏揺すりを無意識に繰り返しながら、地面に視線を落としてがしがしと頭を掻いた。臨也を喜ばせてやりたいのに、臨也の喜んだ顔が全くイメージ出来ないのだ。

「あー……、くそっ、どうすっかな……、あ?」

突然、首元にひやりとした物が宛てられた。条件反射でびくりと肩を揺らし、顔を上げる。

「……門田」

俺の目の前には、アイス缶コーヒーを二つ持った門田が立っていた。

「よぉ、隣いいか?」

俺が頷くと、門田は缶コーヒーを一つ俺に渡して隣に腰を降ろした。
さんきゅ、と礼を言い、缶コーヒーを開ける。くい、とそれを呷り喉に通すと、ひんやりと心地がいい。

「何か悩んでるみたいだな。臨也と喧嘩でもしたか?」

門田の単刀直入な問い掛けに俺は苦笑を漏らした。周り公認で付き合っている俺と臨也は、度々門田や新羅に世話になっているから、俺が悩んでいる時は大抵が臨也絡みだと門田は分かっているのだ。

「喧嘩じゃねえよ」

「じゃあ明日のことか」

「……何で分かんだよ」

「お前とも長い付き合いだしな。察しはつく」

「そうかよ」

物わかりのいい友人に感謝しつつ、しかし何となく照れくさくなってぶっきらぼうに呟いた。

「で?誕生日がどうしたって?」

門田はすっかり俺の話を聞く態度だ。
俺も一人で悩み続けていても埒があかないと分かっている。ここは門田の意見を聞いてみるのもいいかもしれない。

「門田ぁ……誕生日プレゼントって何やったらいいんだ?」

「何でもいいんじゃねえか?」

「は?」

あまりにあっさりした答えに俺の口から間抜けな声が出た。

「臨也はお前からのプレゼントなら何でも喜ぶだろ。そんなに深く考えることないと思うぜ?多分あいつにとっては、誕生日に静雄と過ごせるっていうことが一番重要なんだろうな」

「……そういうもんか?」

「そういうもんだ。お前が臨也の立場だったらどうだ?臨也にプレゼントを期待する前に、誕生日を二人で過ごせることを喜ぶだろ?」

「確かに……そうかもしんねえ」

そう考えると、気持ちが一気に楽になった。
しかし、

「臨也が幸せなら俺はそれでいい。臨也をよろしく頼んだぞ」

いきなり父親のような顔になった門田に、俺は再びプレッシャーを感じずにはいられなかった。




門田と別れた俺は、臨也のプレゼントを探しに街をブラブラすることにした。花束……は、ちょっとくさすぎるか。本当ならば指輪でもあげたいが、生憎俺にはそんな金がない。
さて、どうしたものかと思っていると、客引きの声が聞こえた。

「お姉さんお姉さん、手作りのアクセサリーどう?これなんか今のお姉さんのファッションにぴったりだと思うんだけど」

どうやら路上でアクセサリーを売っているようだ。道行く女を捕まえてはアクセサリーを勧めている。

「手作りか……」

それなら俺にも手が届くかもしれない。
一つの案が浮かんだ俺は、その場を後にした。





5月4日。臨也の誕生日、当日だ。
俺はそわそわとしながら臨也のマンションに向かった。

「いらっしゃい、シズちゃん」

ガチャリ、と開いたドアから、いつも通り笑みを浮かべた臨也が顔を覗かせた。

「おう」

俺は短く返事をし、玄関を上がる。テーブルにケーキ屋の袋を置くと、臨也が嬉しそうに目を輝かせた。

「あ!ケーキ買ってきてくれたの?ふふ、シズちゃんのくせに気が利くじゃない。後で一緒に食べようね」

「シズちゃんのくせに、って何だよ……」

照れくささからサングラスをカチャリと掛け直し、臨也がケーキを冷蔵庫に入れているのを見つめる。

そういやまだおめでとうと言ってなかったな、と気付いた。

「ん?何?どうしたの?」

「いいから、そのまま黙っとけ」

ぎゅう、と臨也を背後から抱き締める。少しの間の沈黙。何を言えばいいか分からない。けど、思うままに話すことにした。

「臨也……誕生日、おめでとう。手前が生まれて来なかったら、今の俺は居なかったと思う。臨也と出逢えて良かった……」

「シズちゃん……」

「これよ、一応プレゼントのつもりで作った。本物の指輪はもうちょい待っててくれ」

ポケットからそれを取り出す。オモチャのような指輪。ビーズで作ったそれを、臨也に渡す。
すると、臨也は肩をふるふると震わせた。
……泣くほど嬉しかったのか?
と、思ったが、

「あはっ、あははっ、はははは!」

どうやら違うらしい。臨也は声を上げながら盛大に笑った。

「な、何笑ってやがる!」

「あははっ、ほんと、シズちゃん、サイッコー!ビーズの指輪って!普通20代の男にあげないよ!っていうかシズちゃんがこれを作ってるところを想像すると、あはは、笑い、止まらない……!」

「手前……!」

人が折角作ってやったのに、馬鹿にするようなその態度が気に入らない。一発、いや、三発殴ってやろうかと拳を握ったが、その前に臨也が俺にビーズの指輪を押し付けてきた。

「何だよ?」

返品されたのかと思い、一瞬胸が痛む。

「付けて?左手の薬指に、さ」

「……手前、馬鹿にしてたじゃねえか」

「やだなあ、馬鹿になんかしてないよ。まあ、意外なプレゼントで笑っちゃったけど、……嬉しかった。シズちゃん、不器用なのにこんな細かい作業大変だったでしょ?」

「別に……こんなもん大したことねえよ」

正直、大変じゃなかったと言ったら嘘になる。力加減が分からずに何度もワイヤーが千切れ、ビーズをばらまいた。
不恰好で、臨也には似合わないかもしれない。でも臨也は嬉しいと言ってくれる。俺はそれだけで十分だった。

「本物の指輪、待ってるから。それまでこれを付けることにするよ」

すっ、と元から付けていた指輪を外す臨也。そして差し出された左手。臨也に促され、俺はその手を取りビーズの指輪を薬指に通した。

「サイズ、ぴったりだね」

「当たり前だろ。手前の指のサイズくらい、感覚で覚えてんだよ」

「流石シズちゃん」

ぎゅう、と抱き着いてきた臨也を抱き締め返す。
俺の腕の中に居る臨也が顔を上げ、無邪気な笑みを浮かべながら「ありがとう」と呟いた。
きゅう、と胸が締め付けられる。くそ、かわいい……!

「……っ、臨也」

「ん?」

「おめでとう、誕生日、本当におめでとう……」

「ふふ、さっきも聞いたよ?」

「うっせ!何度でも言ってやる!」









(HAPPY BIRTHDAY ハニー!)
















20100623
主催企画、「プレゼント」に提出。



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