昨日、臨也に謝罪のメールを送ったものの、返事がない。
おかしい、と思った。普段あんなに返信の早い臨也が、何の音沙汰もないなんて。おかしい。胸がざわつく。
仕事が終わったら真っ先に会いに行こうと決めて、今日も取り立てに向かった。
向かう、筈だった。
俺の足を止めたのは携帯の着信音。メールではない。電話だった。

「すんません、出ていいっすか」

「ああ、構わねえよ」

トムさんに断りを入れて、携帯を開く。

「もしもし?」

『静雄かい?大事な話が、あるんだ……。今から僕の家に来てくれ』

受話器越しに聞こえてきたのは昔からの友人、新羅の声だった。まるで覇気のない新羅のらしくない声音に俺は一瞬戸惑う。

「は?」

『臨也が……』



その後に続いた新羅の言葉を聞いた俺の頭の中は、真っ白だった。
震える手で電話を切り、下を俯いたままトムさんに今日は仕事を休むと告げた。俺の声は掠れていて、トムさんにちゃんと伝わったかも分からない。
トムさんが何か言ったが、俺にその声は届かなかった。叫び出しそうになるのを必死に堪え、きつく噛んだ唇からは血が滲んだ。ただ、一秒でも早く臨也に会いたくて、ひたすら走った。ドクドクと心臓が嫌な悲鳴を上げている。
いつもの冗談であって欲しい、嘘だ、嘘だろ、新羅も巻き込んで俺を騙そうってんだろ?


そうであって欲しいと願いながら、新羅のマンションに向かった。





インターホンを鳴らしてからドアが開くまでの時間が長く感じた。
軈てガチャ、とドアが開かれ、青白い顔をした新羅が出てきた。

「新羅、臨也はどうしたんだよ!?説明しろ……っ」

玄関で新羅の肩を掴み、思わず声を荒げる。
新羅は、肩を掴んでいた俺の腕をゆっくりと外させると、こっちだよ、と俺を家に上げた。

リビングにはセルティの姿もあった。ソファに座っているセルティの身体が微かに震えているように見えたが、生憎今の俺は彼女に声をかける余裕がない。
黙って新羅の後をついて行き、奥の部屋に案内された。

「ここに、臨也が居る」

すぅ、と開けられた襖のその先に、布団に寝かされた臨也の姿。

「臨也……」

吸い込まれるように臨也の元に近付く。何故か、臨也との距離が近付く度に脂汗が滲んだ。嫌な汗が背中を伝うのを感じながら、すとん、と枕元に膝を付き臨也の手を取った。


驚くほど、冷たい。
生きている人間の体温ではない。生きている人間の柔かさもない。


「臨也は、死んだのか……」

自分でもハッとするほど落ち着いた声。

「車に轢かれて、即死だったらしい。信じられない程綺麗な身体だろう?本当ならば家族の元に返すのが一番なんだけど、臨也の家族については妹がいることくらいしか僕は知らないからね。その妹はまだ子供だし、僕が預かることにしたんだ」

新羅の声はところどころ掠れていて、これが冗談でないということを物語っていた。

「そう、か……」

「じゃあ、僕はリビングに居るから」

「ああ……」

臨也と二人きりになって、シン、とその場が静寂に包まれた。
今にも瞼を開けて、シズちゃん何でいるの、何て言ってきそうなのに。どうして臨也は目を閉じたままなのだろう。もう何度も見てきた寝顔。いつもは規則正しい寝息が聞こえてきた。なのにこの部屋は何て静かなのだろう。

「臨也……、起きろよ」

いつものように、ぺち、と頬を叩いて臨也を起こそうとする。

「…………」

だけど臨也は身動ぎもしない。

「昨日は普通だったじゃねえか、何でいきなり死にやがった?」

答えはない。ぎゅう、と手を握っても、握り返されることもない。二度と。もう二度と、臨也からの抱擁も、キスも、何もかも、なくなってしまった。

「何でだよ……答えろよ、臨也……、臨也、……」

俺の声は誰にも届かずに消えていく。
こんなにも苦しいのに、頭がガンガンと痛いのに、心臓に穴が空いたように呼吸が上手く出来ないのに、涙は出なかった。
目を閉じれば、臨也の姿が見える。声が聞こえる。


『最悪……、もういい、シズちゃんの馬鹿!死ね!』


「……っ」

ふと、昨日の臨也の言葉が蘇った。
臨也の最後の言葉。
同時に、自分が昨日臨也に何をしたか思い出した。

「俺……、」


謝ることも出来ないと気付いた時には、もう何もかもが遅すぎた。
























20100618


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