こいつは本当に俺のことが好きなのか。
と、いつも思う。
だって見てくれよ。今のこの状況。

「折原」

「何?うざい。邪魔。どいて」

恋人に対してこの扱い。折原を後ろから抱き締めようとした俺は一蹴りに拒否られ、渋々その場から離れた。仕方なくソファに腰を降ろすも、することがない。暇だ。

確かに、突然押し入った俺も悪い。だけど家に上げてくれたということは、少なくとも受け入れてくれたと取っていい筈だ。
なのにこいつと来たらさっきからパソコンと携帯のディスプレイを交互に見ては忙しなくキーボードを叩いている。
見たところ仕事みたいだ。それとも趣味の一環でまた人間で遊んでいるのか。
どちらにせよ俺に構う暇はないらしい。

今日は帰るしかないか、と腰を上げた時だった。折原が口を開いた。

「そこでボーっとしてるなら紅茶でも煎れてくれない?」

「……折原」

「別に俺はあんたが帰ってくれても構わないんだけど」

「素直じゃないな」

「は?何が?勘違いも大概にしろよ。俺はただ喉が渇いただけ」

「そうか。まあいい、直ぐに煎れてきてやる」

帰るなよ、と折原が引き止めてくれたような気がして、でも素直にそう言えずにいる折原が可愛いと思った。思わず笑みが零れる。
折原の口の悪さも、我が侭も、俺に対してだけだ。特別な存在と思ってもいいんだろうか。それを言ったらまた、勘違いをするな、と言われそうだが。

勝手知ったる他人の家。こうして茶を煎れてやるのにも慣れたもので、折原のカップと、いつの間にか俺専用になっているカップに紅茶を煎れた。

「ほら」

「ああ、どうも」

俺からカップを受け取った折原は、ふう、と息をつき、パソコンの電源を落とした。
どうやら一段落したようだ。

「随分疲れているな」

「昨日徹夜しちゃったんだよ。仕事は終わったけど今日はあんたに構ってられない。これ飲んだら寝るから」

「……ということはそれが飲み終わるまでは相手をしてくれるんだな」

「勝手に言ってろ」

つぃ、と回転椅子を半回転させあちらを向いてしまった折原。それが照れ隠しだってことくらい、俺にはお見通しだ。
さて、とりあえず抱き締めてみようか、と思っていると、ふと髪の間から覗く白い項が目に入った。
一度見てしまえばそこから目が離せなくなり、沸き上がる欲望にストッパーをかけることも出来なかった。吸い込まれるようにそこに唇を寄せる。

「……っ、九十九屋!」

「熱いな、それに赤い」

唇から伝わる折原の体温と、視覚で確認出来るほど朱に染まった耳が愛しい。

「離せ、擽ったい……!」

身を捩って逃げようとする折原の肩を掴み、回転椅子を回転させてこちらに向かせた。
やっと目が合った、と思ったら勝手に身体が動いていて。

「九十九屋……っ、ん、んンっ!」

折原の唇を自分のそれで塞いでいた。
顎を捕らえて、柔らかな唇を堪能するように啄むように口付ける。ちゅっと控え目にリップ音が響き、それを合図に折原が俺の首に腕を回してきた。

「……やるなら、もっとちゃんとしろよ」

こういう時だけは素直なんだ、こいつは。
折原のおねだりに応えて、後頭部に手を添えぐっと唇を押し付ける。海外の映画のラブシーンも顔負けなほど激しく口付けを交わした。
舌を入れると、折原は逃げるどころか自ら舌を絡ませ、甘い吐息を漏らした。

「は…っ、ん……九十九屋っ、つくも、や…ッ」

「折原……」

角度を変えて、もう一度唇を合わせる。くちゅ、と湿った水音が静かな部屋に響き続けた。

満足して漸く唇を離すと銀色の糸が互いを繋ぎ、そしてぷつんと途切れていった。

「しつこいっ」

「心外だな。お前がもっととねだってきたんだろう?」

「……っ!」

「素直っていうのもいいもんだな」

「悪かったな、普段素直じゃなくて」

「何だ、自分で分かっているのか」

「うるさい」

本人は睨んでいるつもりなのだろう。しかし、先ほどのキスで湿った唇と潤んだ瞳、上気した頬を携えたその顔で睨まれても欠片も怖くなかった。
むしろ、

「折原……、お前、本当に可愛いな」

「意味が分からないから死ね」

「ああ、セックス中に折原の腹の上で死ねるならな」

「この変態!」

そう言った天の邪鬼な恋人はやはり可愛くて。変態な俺は下半身の熱を抑えることが出来ずに折原を抱き上げて寝室へと向かった。


勿論、全てが終わった後は罵倒を浴びせられたがな。




























20100607
九十九屋さんが変態ですみません。わたしはとても楽しかったです^^(いい笑顔!)
9913のいいところは臨也がツンデレなところですね!




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