昼休みの購買はまるで戦争だ。その戦争に勝ち抜き、やっとの思いで買ったメロンパンと焼きそばパンとコロッケパン。自販で買ったパックの牛乳も持って、俺は中庭へと向かった。
中庭では既に多数の生徒が弁当を広げて昼休みを堪能していた。ぐるりと周りを見渡すと、俺に気付いた新羅が手を挙げて手招きをした。
新羅の隣には門田。更にその隣には、臨也が居た。いつものメンバーだ。

「静雄、こっちこっち」

「おう」

新羅に促され、腰を降ろす。校舎の日陰になっているところで、陽射しが強い今の時期には嬉しい涼しげな場所だ。

「あ!シズちゃん、メロンパン買ってきたの?」

俺が、買ってきたパンを地面に置いていると臨也は早速物色を始めた。

「甘いもんが食いたくなった。やらねぇからな!」

「まだ何も言ってないよ。シズちゃんのケチ」

「んだと手前……!」

べえ、と舌を突き出す臨也。いつものようにくだらない言い合いをしていても、ふとした臨也の表情や仕草に俺の心臓はドクドクと脈打つ。今みたいな子供っぽい一面も、今まではうざくて仕方なかったけど、今では可愛いと思えてきて。自分でも末期なんじゃねぇかと思う。

「じゃれ合うのはそれくらいにして、早く食べよう。まあ僕は別に気にしないから好きにやってくれて構わないけど……ほら、京平パパが怒ってるから」

「別に怒ってはいねぇよ。お前のそのパパっていう呼び方の方が俺は気になるんだが」

「パパー!怒らないでー!」

「臨也っ、そんなにくっついたら弁当が食えないだろ」

「京平、喜んでるね。臨也にパパって言われて喜んでるね。京平を見ていると、娘に甘いは親父の習いとはこのことだと改めて感じるよ」

ぐしゃり、と手のひらで何かが潰れた。食べようとして袋から出したばかりの焼きそばパンだ。
何つーか、苛々する。何で臨也は門田にベタベタしてんだ、ああ?門田は門田で満更でもなさそうだしよぉ。

それが伝わったのか、臨也がパッと門田から離れた。

「あ、あははっ、シズちゃんのパンぐちゃぐちゃだぁ」

「ああ、今すぐ手前もぐっちゃぐちゃにしてやりてぇなあ」

「し、静雄、落ち着いて!」

「今のは俺も悪かった。お前と臨也の仲を反対してる訳じゃないんだ。分かってくれ」

二人に抑えられ、正気に戻る。
ああ、くそっ!みっともねぇ……。

「別に嫉妬、とかじゃねぇから」

「シズちゃんの嘘つき。嘘つきは泥棒の始まりだよ?まあシズちゃんは既に俺のハートを奪って行ったんだけどね。でも嘘は良くないよねぇ。ちゃんとヤキモチ妬いてくれたなら言って欲しいなぁ」

「……っだから違ぇって言ってんだろ!」

「じゃあドタチンとイチャついてもいい訳?あーんとかしちゃうけどいいの?」

じい、と紅い瞳に見つめられ、俺はぐっと息を詰めた。
その光景を見るのは激しく嫌だ。

「いいわけねぇだろ……」

小さく呟くと、臨也はくすりと笑った。

「ふふ、可愛いシズちゃん」

「さあ、京平。僕達はちょっと場所を移動しようか」

「臨也、襲われそうになったら逃げて来いよ」

門田が聞き捨てならないことを言った気がするが、俺が何かを言う前に二人は行ってしまった。
急に臨也と二人きりにされ、何だか落ち着かない。

「シズちゃんの焼きそばパン、駄目になっちゃったね。俺の、少し分けてあげようか?」

臨也は自分の弁当箱から唐揚げを一つ箸で摘まんで首を傾げた。

「……いいのか?」

「勿論。シズちゃんは育ち盛りなんだからしっかり食べなきゃ。はい、あーん」

当たり前のように差し出された唐揚げ。
慣れないその行為に、俺は躊躇いがちに身を乗り出して薄く口を開いた。

「ん、」

臨也の手によって口に入ってきた唐揚げは、今まで食べたどの唐揚げよりも美味かった。
しかしやっぱり気恥ずかしい。頬が一気に火照り始めたのが自分でも分かった。

「どう?」

「ああ、美味い」

「ほんと?良かった。じゃあシズちゃんのメロンパンもちょっと頂戴?」

「お前、さっきは育ち盛りがどうのって言ってたじゃねぇか」

「俺もシズちゃんにあーんってして貰いたい」

「……一口だけだからな」

「うん!あーん」

顔を上げて、その上目まで閉じるもんだから、アレみてぇだった。キス待ち顔、っつーのか?あー、やべぇ。変な気分になってきやがった。

無意識にそれを紛らそうと、少し乱暴にメロンパンを千切り臨也の口に突っ込んだ。

「ほらよっ」

「んぐっ!ちょっ、シズちゃん乱暴!もっと優しく食べさせてよ!」

「……悪ィ」

「もう!悪い子なシズちゃんにはお仕置き!」

「は、」

何すんだ、と言う前に、臨也は俺の指を掴みそれを躊躇いなく口に含んだ。
柔らかな舌が俺の指に絡まり、ちゅ、と軽く吸われる。根本までずっぽりと銜えられ、臨也の喉を傷付けやしないかと心配になった。しかしそんな俺の心配をよそに、臨也は軽く顔を上下に動かして根本から先端まで丹念に俺の指を舐めた。上目遣いの臨也とまともに目が合い、ぐわっ、と体温が上がる。

「シズちゃんの指、美味しい。まだちょっとだけ焼きそばパンの味がする」

「この野郎……っ」

「あははっ、シズちゃん顔真っ赤ー!」

「うるせぇっ!」

俺は気を落ち着かせる為にパックの牛乳を引っ掴み、一気に中身を流し込んだ。

「シズちゃん!」

「あ?」

おかしい。甘い。牛乳が甘い。苺の味がする。

「シズちゃん、それ俺の苺牛乳なんだけど……!」

「悪い、間違えた」

「……っ」

手に掴んでいたのはピンク色のパックで。どうやら臨也の飲み物と間違えてしまったらしい。

「俺の牛乳やるから……って、何だ、その顔」

「う、うるさい!」

臨也の顔が、赤い。
暫く考え、ピンと来た。
分かった。分かったぞ。
臨也の様子がおかしい理由が。

「臨也くーん、間接キス、だな?」

「言うなよ、馬鹿!」

「人の指舐めておいて、間接キスでそんなになっちまうとはなぁ」

「……自分がするのはいいけど、されるのは恥ずかしいの!悪い?」

開き直ってそっぽを向く臨也。
その耳元に唇を寄せて、言ってやった。


「悪くねぇよ、むしろ……可愛い」


案の定、耳まで真っ赤にした臨也を見て、俺は笑いが止まらなかった。

そんな、とある昼休みの出来事。



























20100606
リクエストに書いてあったかっこかわいい静雄はログアウトしました。しかし気持ちわるい静臨というのはクリア出来たと自負しています(笑)
来神大好きだから書いてて楽しかったです!はとおし、リクエストありがとうございました!



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