「あー、腰痛い」

清潔感溢れる白いマットが敷かれたベッドには、同色に近い粘着質な液体が目立つ。口だけでなく全身で文句を言う痩躯な裸体にも同様、更に所有の証を強く主張する赤い鬱血痕が点々と無数に花咲き栄えていた。換気をしていない室内には独特な雄の臭いが籠もり、如何にも情事後という雰囲気が如実に伝わる。

外は既に太陽が昇りかけていた。体を重ねていると、時が止まる感覚に見舞われたり、満足な刺激を与えることに必死で時間を忘れたりして時間感覚が狂う。時計の針は午前4時半くらいを指していた。

行為により痛みを伴った腰を押さえて若者らしからぬ文句を呟きながらベッドから降りる。床に散らばった自分の衣服からジャケットだけを拾い、汚れた裸体を隠すように着衣すると、覚束ない足取りで窓際まで行きやや大きめのガラスから見える広大な朝焼けをぼうっと眺めて余韻の残った吐息を吐いた。

「とか言って善がってたのは誰だ」

傍に置いてあったウォーターボトルに手を伸ばし残り半分もない中身を飲みながら、まだ鮮明に思い出せる彼の乱れっぷりを瞳の奥で映してそう言った。

「それは仕方のないことだよねぇ。人間の本能だ」

快楽には抗えないと、黒ジャケットからすらりと見える下肢の肌理細かい白い肌が語る。

「あーもう怠い。1本ちょうだい」

振り向きながら指さしたのは、枕元に無造作に投げ出された煙草。静雄の所持品だ。

「は、」
「煙草。1本ちょうだいって言ってるんだけど」

驚いて一瞬反応に遅れた。臨也は煙草を好まなく、静雄が吹かす煙草から放たれる臭いと立ち籠める煙に嫌悪感を抱く度に禁煙をせがんでいたゆえに。対する静雄は、相手が所謂恋人だからと言ってやめようとせず、寧ろ歪む顔が見たくて禁煙を頼まれても押し切り喫煙を続けてきたが、まさか自ら煙草に手を出すとは思わず。

「急に吸ってみたくなった。なんか口寂しいし」
「ああ、そう」

口寂しいの理由が気になったが、下らない事情な気がして出掛かっていた言葉を飲み込み、箱とライターを軽く投げて受け取らせる。早速箱から1本取り出し、薄紅の唇がそれを挟むのを見て、いつも自分がやっている動作と殆ど同じだし、街中でも幾度と同じ光景を見ている筈なのに、甚だしく印象的なものを感じる。

当然最初は少し躊躇っていた。体へプラスにならないことをしようとしているのだから。何せ禁煙をせがむ際、かなりの頻度で「受動喫煙で健康を損なう」と自分で言っていた。そしてライターを押す動作は慣れていても、先端に火を持っていく動作が不慣れを見せる。普段は平然と何でもこなす彼にも手こずる事は一応あるのだと、今更ながらに思った。若干の苦戦の後、漸く先端に橙と赤の混ざった色が点される。

キスをする寸前まで煙草を吸っていることが多い静雄に対して悉く不満を零している臨也にとって、直接味わう煙草は煙そのものの味で。率直に言えば不味いだけのもの。好きでもない味覚に拒否をしてゲホゲホと盛大に噎せる姿が映った。その時の顔はといえば今まで見たことがない崩壊具合。

だけれど、何だろうか。仕草は特段格好いいわけでもないのに、無駄な色気を纏っている。確かに今はジャケットしか羽織っていない大胆な格好な所為もあるかもしれないが、情事後だから、ではなく。窓から差し込む明かりが演出をしているでもなく。故意なのか、吐き出される紫煙にすら色を感じる。そして何より唇が厭らしい、ように見える。

外を歩いていると、たまに美人な女性が相応の美しい唇でフィルターを挟み喫煙しているのを見かけては、自然と目を奪われる。目の前の彼はそれと同じだ。女性のような潤いは少ないが、折原臨也という男には似つかわしい唇。目の前のそれは確かに美しい。それは欲という理性がたゆたうには十分すぎた。

「なあ、取り敢えず下穿いてくれ。俺の為に」
「ん、後でね」
「顔に煙草の先端押しつけるぞ」

せっかくの気分にそぐわない言葉を吐き捨てて徐に立ち上がり、ゆっくりと彼へ近付く。殺伐という空気に場慣れした余裕の笑みが静雄の焦燥を煽る。筋肉の整った上半身を映しても、一歩として逃げようとはしない。鬼面を、近付ける。鬼面が、近付く。ふ、と吹きかけられる煙を抜け、むき出しになっている灰など気にすることなく、煙草をくわえている口の端に一瞬だけ唇を置いた。

無言で差し出した携帯灰皿に、まだ数ミリしか長さの減っていない煙草を片付けるのを見計らって唇を塞ぐ。暫く貪ったのち、割き入れて絡めた舌が掬ったのは、馴染みある味。けれども新鮮と云えば新鮮。いつもとは逆の味覚は火傷しそうな程の興奮。

「ふ、は……ぁ、」

目を閉じても差し込む朝焼けの朱。燃えるような色は、限度まで堪えていた静雄の理性を完全に破壊させ、ますます溺れてしまいそうな味に何度も何度も花唇を吸った。






















√24の鴇音さんこととっきーから頂きました……!事後に受けが煙草を吸うシチュエーションが大好きなんです////色気半端ねえええ!素敵な静臨をありがとうございました!ご馳走様です^//^
改めて、これからもよろしくお願いします^^*



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