それは何気ない行動が引き起こした、とんでもない事実だった。

「シズちゃん、今何時ー?」

「あ?自分で見ろよ、ったく……」

とか言いながらも携帯を取り出して時計を確認しようとしてくれるシズちゃん。何だかんだ言って俺に弱いシズちゃんが好き。

俺はシズちゃんの携帯を覗き込んで、「もうこんな時間かー、お腹空いたなあ」なんて、……言える筈がなかった。

「何これ」

携帯のディスプレイには、シズちゃんと幽くんが仲良く二人で映っていたのだ。

「なっ、勝手に見んじゃねえ!」

慌てて携帯を閉じるシズちゃん。
その顔は真っ赤に染まっていて。照れ隠しなのかサングラスもカチャカチャ掛け直してる。
その態度に、俺の機嫌は更に降下していった。

「君と幽くんが仲良いのは知ってたけどさ。弟との2ショットを待ち受けにするくらいシズちゃんが末期のブラコンだったとはねぇ」

「うるせぇっ!手前には関係ねぇだろ!」

「……っ」

カチン、ときた。
それ以上に、悲しかった。軽はずみとは言え、シズちゃんに関係ないって言われたことが。
ああ、ほら、視界が滲み始めた。いつから俺はこんなに女々しくなったのかな。

「……そうだね、俺には関係ない。君達兄弟の間に、俺が入る隙間なんてどこにもない」

なるべく声が震えないように小さく告げて、俺はくるりと踵を返して今来た道を戻り始める。

「おい、臨也!意味分かんねえよ、何言ってんだ、手前……」

俺が逃げると追い掛けてくるところは昔から変わってない。

「うるさいな、放っておいてよ」

「臨……っ」

「バイバイ」

何か言おうとしていたシズちゃんを振り払うように走り出す。
一度も後ろを振り返ることなく駅まで走って走って走って、気付いた時にはもう電車に揺られていた。

(……悔しい。これじゃあただのだだっ子だ。拗ねて帰って来ちゃって……子供みたい。あーあ、久しぶりのデートだったのに)

自己嫌悪に陥っても今更どうすることも出来ず。
携帯を開いて、待ち受けにしていたシズちゃんの頬を撫でる。

俺はこんなにシズちゃんを愛してるのに。
分かってる。シズちゃんも俺を想ってくれてる。分かってるのに、こんなにも苦しい。

「シズちゃんのばか……」

絞り出すように出した声は、電車の音に消されてしまった。
窓に映る自分は酷く滑稽で醜くて、ああ馬鹿なのは俺の方かもな、と思った。





いつもの二倍くらい時間を掛けて帰宅した。今日は一日中シズちゃんと居る予定だったから、やるべき仕事も昨日の内に済ませてしまってどうせ家に帰っても暇だし。

深い溜め息を吐きながらマンションのエントランスでポストの確認をする。いつもは出勤のついでだからと波江に頼んでいることだけど、今は少しでも時間を潰したかった。
ポストを覗いていると、ふと影が差した。

「臨也!」

その声を聞いた途端、どくん、と心臓が高鳴った。
シズちゃんだ。シズちゃんが居る。

「どうして?何でここに居るんだよ!?」

「走ってこっちに向かってて……、そしたら途中でセルティに会って乗せて貰った……」

シズちゃんは多分俺を抱き締めようと腕を伸ばした。

「走ってくるつもりだった?ばっかじゃないの……!」

けど俺はその腕から逃れて、心無い一言を放つ。
ああ、違う、こんなことが言いたいんじゃない。シズちゃんが来てくれて嬉しいのに、何て言えばいいか分からなくて、口と身体が勝手に動く。
俺のその言動で、シズちゃんの表情が一瞬曇りを見せた。

「悪ぃ……」

「……っ」

その哀しげな顔を見て、俺はまた自己嫌悪。
もうやだ、泣きたい。

少しの沈黙の後、シズちゃんは携帯を取り出した。

「電車なんか待ってられなかった、少しでも早く誤解を解きてえから……話、聞いてくれ。っつか、これ見ろ」

「何?またあの待ち受け見ろって?あれが見間違いだって言いたいの?それとも俺の目がおかしくなったのかな」

「だから誤解だっつってんだろ!黙って見ろよ!」

ずいっ、と携帯を差し出される。
待ち受け画面ではなく、データフォルダの画面になっていた。
何故かシズちゃんは顔を赤くしていて、不審に思った俺はそれに目を通すことにした。

「……ッ、シズちゃん、これ……」

「それで分かったろっ!」

俺が見たものは、沢山の俺の写真。データフォルダいっぱいの。
データを移し続けているのか、一番古いもので高校時代のものまであった。
多分これは屋上で昼寝をした時、文化祭、体育祭、修学旅行、卒業式。最近のものはこの前シズちゃんの家に泊まった日の日付になっていた。俺の寝顔。慌てて撮ったのか、少しブレている。

「シズちゃん、これ、盗撮っていうんだよ……っ」

画面が揺らいで、声が震えて、胸がいっぱいで。気を抜いたら嗚咽が漏れそうなほど。

「お互い様だろうが……。もういいから抱き締めさせろ」

シズちゃんが言い終える前に、俺はシズちゃんの胸に飛び込んだ。

「シズちゃん、ごめんね……。俺、幽くんに嫉妬してた……シズちゃんは俺のなのにって」

「幽は幽で大事な弟だ。でも臨也と比べたりなんかしたことねえ。臨也、手前の代わりは誰も居ねえんだよ」

優しく抱き締められて、啄むような口付けを何度も繰り返される。一つ一つの口付けに愛しいという気持ちが溢れていて、恥ずかしい。

「シズちゃん、好きだよ、大好き」

「俺も好きだ、臨也……」


ねぇ、シズちゃん。
今度は二人で写真撮ろうよ。
そうやって思い出が増えていったら、俺幸せだなあ。





























20100531
盗撮し合う静臨バカップル!



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