(※九十九屋さんの捏造設定注意)
初夏の昼下がり。カラッとした晴天の下で、俺は団子屋の外の長椅子に座ってぼんやりと空を見上げていた。
俺の胸に広がるモヤモヤとしたものを嘲笑うかのように、空には雲一つない。
「へえー、平和島副長はこんなところでおサボりですかぁ?」
一瞬で視界は銀色に染まった。その銀色の持ち主を俺はよく知っている。
「坂田さん」
「よっと……、どしたの?もう一人の副長さんは?」
坂田さんは俺の隣に腰を降ろし、俺が注文していた団子に勝手に手を伸ばした。
俺のみたらし……。
「……」
「ん?あ、何、食べるんだったの?悪いねー」
「……いや、どうぞ」
「そう?じゃあ遠慮なく」
別にどうしても食べたかった訳じゃないし、食べ物でキレるような器の小さい男じゃないぞ、俺は。まだ一本残ってるし。しかしこのままでは茶まで飲まれちゃいそうだ。
坂田さんに飲まれる前に、俺は湯呑みに口を付けた。
「で?もう一人の副長さんは?」
「土方さんは総悟と見回りっすよ」
「そして静雄くんはこんなところで何物思いに耽ってるのかな?夢精しちゃった?」
「むせ……!?何言ってんすか……!」
飲んでいた茶が変な器官に入り、思わず噎せてしまった。この人はへらへらと笑いながらいつも俺をからかうようなとんでもないことを言う。
「あ、違うの?じゃあ何よ。まあ、臨也くん関係っつーのは分かっけどな」
坂田さんはやっぱりへらりと笑いながら俺の核心を突いてきた。
「……俺、そんなに分かりやすいっすか?」
「男の悩みなんて仕事か恋愛のどっちかだろ?で、今のお前は思っきし乙女な顔してっからな。臨也くんと言い、デレッデレだよね、君達。何、デレデレ流行ってんの?いや、俺は流行りなんか関係なくツンデレな十四郎が好きだけどね!」
いや、あんたの話は知らねーよ。
心の中で突っ込むも、仮にも土方さんの恋人に対してそんな口は聞けない。
惚気話が始まりそうな坂田さんを制したのは、
「坂田、話がズレている」
薄い茶色の髪を後ろに束ね、鮮やかな青色の着物を身に纏った男―……
「え、ああ、悪い悪い話が逸れちまったな……って、九十九屋じゃねーの。いつからそこに居たの、気配感じなかったんですけどぉ」
坂田さんの言葉からして、この男は九十九屋というらしい。
九十九屋、……どっかで聞いたことある。どこでだっけか。
「たまたま通りかかっただけだ。そちらは真選組の平和島副長だろう。折原からいつも話を聞いている」
「……臨也から?」
俺が問い掛けると、九十九屋は笑みを浮かべながら小さく頷いた。
ああ、思い出した。臨也がたまに話していた。九十九屋という、街を異常なまでに愛する変な奴が居ると。
「で?君は夢精をして悩んでいると言っていたな。まあ、気にすることはない。男なら誰でも……、ん、美味いな。ここの団子は」
「あ?だから違ぇって言ってんだろ!初対面のくせに何だ手前!しかもそれ俺の団子だろうがぁあああ!コロス!めらっとコロス!それが最後の晩餐ってことでいいんだよなぁ?」
「はいはい、落ち着いて静雄くん。とりあえず青筋しまって」
九十九屋に掴みかかろうとしたところを坂田さんに止められ、ぐ、と我慢する。坂田さんに迷惑はかけられねえ。
「で?静雄くんは何を悩んでんの?」
「団子を貰った礼として俺も聞いてやろう」
何で九十九屋まで。
とまた怒りのボルテージが上がりそうになったが、俺を心配してくれている坂田さんの気持ちを無駄にするようなことは出来ずに、俺は胸のモヤモヤを打ち明けることにした。
「臨也が、十四郎さんと仲良くしてるのを見るとモヤモヤするんすよね……」
「ははーん、嫉妬か。ま、俺もその気持ちは分からなくもねぇな。俺なんかお前にも嫉妬するからね。十四郎と同じ職場で働けんなんて羨ましいなコノヤロー、ってな」
「……すんません」
「何でお前が謝んのよ。ま、安心しろよ。俺と居る時の臨也なんか、いっつもシズちゃんシズちゃんうるせーから」
ぐしゃぐしゃと俺の頭をかき混ぜながら言う坂田さんに、大分心が軽くなった。別に臨也と十四郎さんが浮気してるとか思ってた訳じゃねぇけど、モヤモヤを溜め込み過ぎてネガティブになってたらしい。
「それは……お互い様じゃないか?」
「あ?」
九十九屋がふいに口を開き、俺はそちらに視線を向ける。
「今この状況を折原が見たら、きっとお前と同じような気持ちになるだろうって話さ」
「あー、あいつ独占欲強そうだしなあ」
坂田さんは九十九屋に同意するようにうんうんと頷いた。
「お前はお前が思ってる以上に、折原に想われてるってことだ」
「結局お前らはバカップルか。若いねえ」
「……別に、バカップルじゃ、ねぇです」
二人の言葉に、思わず口ごもってしまう。恥ずかしさと嬉しさが混じってむず痒い。
「じゃあ、俺はこれで」
「おう。また今度呑みに行こうや」
ひらりと手を振る坂田さんに、九十九屋は軽く手を上げ背を向けた。
少し歩いたところで、九十九屋は後ろを振り返り、
「静雄、団子ご馳走さん。折原と仲良くな」
と俺に向かって投げ掛けた。
「手前に言われなくてもそのつもりだ!」
「ハハ!威勢のいい副長さんだ。また会えるといいな、この素晴らしい街の中で!」
……やっぱり、臨也の言う通り変な奴だ。
怒りの元が去ったことに一息つき天を仰ぐと、空は相変わらず澄んでいた。
20100524
ごめんなさい。……………すっっっっっっごく楽しかったです!!九十九屋さんに対する妄想という名の捏造ひどいですね。すみません。楽しかったです(二回目)静雄の乙女化すみません。楽しかったでry